というのも、大量密輸の手段で一番多いのは海上での取引だが、海上保安庁によれば2016年の1年間に摘発した密輸事件は8件。押収量は過去最大の1300キロに上り、末端価格に換算すると919億円相当。たまたま摘発された、わずか8件の事件でこれだけの量の“ブツ”が見つかったわけで、摘発を逃れ、密輸に成功しているものも入れれば、その総量はさらに膨れ上がるはずである。

 つまり、国内に流通する覚醒剤は、末端価格に換算して年間数千億円規模と考えるのが自然ではないだろうか。日本で一番売れている向精神薬デパスの売り上げが、年間100億円程度であることを考えれば、覚醒剤市場がいかに巨大かということがわかるだろう(仮に乱用者10万人、年間240億円市場だとしてもだ)。

覚醒剤はヤクザの「専売特許」
シノギが細る中での命綱

 それでは、この巨大市場にうごめく密売関係者とはどんな人間たちなのか。また、市場を支える消費者たちは、いったいどんな人間で、どこにいるのか。

 A氏によれば、「構造的には、一般の合法的な市場とそんなに変わらないと思うよ。市場を牛耳っているのは大資本、つまり数の上ではごくわずかな『元売』と『大卸』。このふたつがピラミッドの頂点で、その下に無数の販売代理店が連なっているという構造。下にいけばいくほど売り上げも利益も小さくなる」と言う。

 そして、「最末端の売人なんて、月の売り上げが30万円程度あればいいほうだ。だいたいクズみたいなチンピラだから、売人自体がシャブ中で、商品に手をつけまくってしまうから、最終的には破たんしてしまうパターンが多い(笑)。だから、ビジネスとしてきっちり成り立っているのは、『中卸』以上だろうね。売人の総数なんて誰も分からんが、俺の地元(関東地方のある県)だけでも200人はいるらしいから、末端の末端も含めれば、日本中に最低でも1万人はいるんじゃないか」と語る。

 前述したが、密売に関わる者の大半が暴力団関係者(元ヤクザや周辺者も含む)であることは間違いない。これには覚醒剤特有の事情がある。大麻やコカイン、危険ドラックなどの薬物も、暴力団関係者が絡む割合は高いが、覚醒剤ほどではない。覚醒剤はまさにヤクザの「専売特許」なのだ。