中小・中堅企業が生き残る必勝不敗の経営がある、というエステーの鈴木喬会長。そうした発想と自信は、どのような経験から育まれたのだろうか。発想の源泉を聞いた。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部論説委員 原 英次郎)

「良いものを作れば売れる」は開発者の驕りにすぎないPhoto by Yoshihisa Wada

大平原では中小・中堅は勝てない

――連載では、「小さくても勝てる。小さいからこそ勝てる」というエールをいただきました。その武器は何ですか。

鈴木 戦う場所を選び、かつスピードをもって動く、ですね。中小・中堅が、大手と大平原でまともに向き合ったら絶対に負けますわ。だから大平原には、私らは絶対に出ていかない。弱い奴だけがいるところで戦う。自分より弱い奴しか相手にしないんですよ。

 昨日もエステーが大株主である会社の役員会に行って、「やり方をちょっと変えた方がいいんじゃないか。大きい奴と同じことをやってたらダメや」とぶちまけてきたんです。例えば大量生産・大量販売するコモディティー化しているマーケットに入っても、小っちゃな奴は物量戦を仕掛けられてあっという間に潰されます。

 そもそも小さな会社は、小規模でやっているからロットも少ないし、コスト高になるから大平原で戦う構造ではないんです。でも一方で僕は、「コスト高、結構じゃないか。それで勝てる場所はあるよ」とも思うんです。「ウチみたいな中小企業では、安売りしないと買ってくれない」と勝手に思っている中小企業は多いでしょ。でも、戦う場所さえ間違えなければ高くした方が目立つし、注目してもらえるんです。

「どうせ今までだってそれほど売れてないんだから、発想を転換して値段を上げる。そのためには中身をよくする、パッケージをよくする、絶対に売れるという確信を持たなきゃダメだよ」と、そう発破をかけてきたんです。

 そうしないと本当に競争に負けちゃう。いざとなれば、ニッチのマーケットを自分で創ってしまえばいいんです。

――逆の発想ですね。

鈴木 そうなんですよ。さっきも高田馬場の駅前にあるドン・キホーテを覗いてきたんですが、一見すると訳の分からない見たことがない商品が結構良い値段で売ってるんです。創業者の安田さんに「あまり見たこともない不思議な商品を売ってますね」と言ったら、「そうだよ。俺のとこはどこにでもあるものを価格だけで勝負していたら潰れちゃう」と言っていた。確かにそうですよね。お客様は宝探しに来るんですから。

 ドン・キホーテは「驚きの安さ」とPRして、確かにお店の表側には安い商品が並んでいるんですが、奥に入ると見たこともない商品が並んでいる。あれうまいですな。ノウハウですよ。圧縮陳列だから頭がごちゃごちゃになって訳が分からなくなり、宝探しの気分になって買うんです。

 100円ショップのダイソーも宝探しですよね。非常に成功しているタイの店を僕も見てみたが、100円ショップなのに日本円で200~300円ぐらいの価格になっている。社長の矢野さんに、「あれ、100円ショップかと思ったら300円ショップですね」と言ったら、「タイでは平均すると、そんなもんかな」と言うじゃないですか。でも現地のタイ人は、お休みの日には日本人街にあるダイソーめざしてバスで乗り付けるんです。ニッチな100円ビジネスに、まったく別な付加価値を付け始めている。

――ものの考え方の妙ですね。

鈴木 考え方をちょっと変えると面白いことがいっぱいあるんです。小さいから弱いという発想自体がね、根本的に間違ってる。小さいから強いんです。大きな奴が設備投資をすると、中小はうらやむんです。「すげえなぁ」と。「これでまた差がついちゃう」と肩を落としたりしてね。

 でも、それは全然違う。大男総身に知恵が回りかねで、大きい奴らはでっかいのが自社の強みだと知っているから巨大な設備投資などの物量で勝負してくる。そういう風に考えなきゃ。だから同じ舞台では勝負はしない。

 困るのは、こちらが創った市場に興味を持たれることなんだ。消臭芳香剤や脱臭剤分野で、エステーが挑戦して成功した分野には大きい企業も目をつけてくることがある。僕にしたら「こっちに来るな」という感じ。でも、だいたい勝ちます。

 なぜなら旬の人気キャラクターを企画品で使うとか、生産体制でも僕の方が小回りが利きますから。大手が、巨大であるが故にできない部分をつついているといなくなっちゃいます。気がついたら誰もいない。最高の気分ですよ。

――知恵を働かせること、それをスピーディーにやる。

鈴木 中小の経営者には、「うちは小さいから」って卑下する人が多い。でも不思議ですね。「小さいからいいんじゃねーか」と思いますけどね。一番重要なのは、小さい会社でいかに儲けるかってことで、それに脳みそを働かせて敏捷に動いた奴が勝つんですよ。

 だから私の戦略は、大きな奴をなるたけ刺激しない。ニッチマーケットとはいえ100億円規模になると大手が出てきますから、なるべく市場の急成長を抑えて大手が魅力を感じないようにしておく。一方で、小さな奴は刺激する。2匹目のドジョウを狙って入ってくるのを促す。入ってきたら新商品を投入したりして相手が開拓した市場をいただく。そうしてニッチの市場で大きなシェアを握っていれば、大手が参入してきても簡単には負けないのです。

 だから「強きを助け、弱きを挫く」。強い奴とのケンカは避けて弱い奴とだけ戦う。これが必勝不敗の大鉄則ですよ。