マンション大規模修繕工事は従来12年サイクルといわれてきたが、施工技術や部材の進歩により、延長できる可能性が出てきている。一方で、高経年マンションの耐震化は、急務となっている。限られた資金の中で、長く暮らせる住まいのための最善策を探る。

 マンションの供給戸数は、ここ数年減少傾向にあるとはいえ10万戸程度ずつ増えている。2015年度の新規供給戸数は10万3000戸あり、供給済みのマンションはほとんど解体されないため、確実にストックとして積み上がり、総数で623万3000戸に達した。当たり前のことだが、これらのマンションは、毎年時間の経過とともに劣化していく。

「最初のマンション供給から半世紀。震災や事故以外で建替えが進んだ例は少ない。マンションの高経年化とともに住民の高年齢化が進み、マンションを“終の棲家”と考える人も増えている」。現在のマンションが抱える課題について、そう語るのはNPO法人日本住宅管理組合協議会の川上湛永会長だ。

更新は新部材を使い
耐震化は少しずつ進める

 建設省「平成25年度マンション総合調査結果」によれば、現在居住するマンションに永住するつもりだと答えた人が、5年前の49.9%から52.4%に増え、住み替えるつもりの人は減少した。一方で、中古マンションの流通が活発化し、住宅市場でのシェアが拡大している。高経年マンションにとって、快適に長く暮らし続けるために、その資産価値を保全するために、大規模修繕工事は鍵となるものだ。住民一人一人の責任として捉えるべき案件であろう。

 基本的に、大規模修繕工事はマンション敷地内にあるもの全てが対象で、駐車場・駐輪場なども含まれる。工事の時期を迎えると、住民で構成する修繕委員会が立ち上がるが、まず「最新情報を集めること」だと川上氏はアドバイスする。設備の更新などで交換する部材は、日進月歩で進化し、長寿命の新部材が数多く開発されている。

「昔の給排水管は鉄管だったが、今はポリエチレン管が使われている。これまで、鉄管の寿命に合わせて大規模修繕工事のサイクルも12年といわれてきたが、ポリエチレン管には15年からそれ以上の耐久性がある。費用は多少高くなるものの、ライフラインを最新の部材に変えることで、大規模修繕工事のサイクルを延ばすことも可能になる」。そうした情報の有無が、工事内容や業者の選択の際に役立つはずである。

川上湛永(かわかみやすひさ)
NPO法人日本住宅管理組合協議会
会長

朝日新聞社社会部記者として、住宅・都市・マンション・地価問題などを取材。地域のマンション問題にも取り組み、管理組合理事長を3期務めた。2012年より現職。

 また川上氏は、その一時期だけでなく、恒常的に大規模修繕工事に関わる情報を収集することが大切だとも言う。長期修繕計画に縛られず、給付期間が限定される補助金や助成金があれば、それを利用して工事を行うことで、全体の費用軽減につながることもある。

 耐震化については、なかなか難しいのが実情だ。川上氏は「130戸程度の中規模マンションの大規模修繕工事には、一般的に2億~3億円ほどの費用がかかり、耐震改修にも同程度の費用がかかるとみられる。マンション設備は確実に劣化するため、大規模修繕工事を1回飛ばして耐震改修費用に当てることもできず、いつ来るのか分からない地震のために別途費用を徴収することも難しい」と言う。そこで、現実的な解決策として「3億円の修繕予算があるなら、一部の5000万円を耐震改修費用に回して、できる範囲の改修を行う。そして次の修繕時にまた一部というように少しずつ進めていく」ことを提案する。