破産法が改正されて、借り手への負担が増加。労働時間の4分の1を銀行のために働かされ、それでも、借金は減るどころか逆に増えていくのが現実だ。

改正破産法は強者が弱者を食い物にするかジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。

 アメリカの住宅ローンの崩壊は、先進文明社会の特質としてあまねく認められている「法の支配」について強い疑念を生じさせている。法の支配は弱者を強者から守り、すべての人が公平に遇されるようにするとされている。だが、サブプライム危機後のアメリカでは、どちらも行われていないのだ。

 法の支配には財産権の保護も含まれる。たとえば、ある人が自宅を担保にカネを借りているとしても、銀行は所定の法的手続きを取らずに勝手にその担保を取り上げることはできない。だが、最近のアメリカでは、本来なら借金はもうないはずなのに、自宅を取り上げられた人の例がいくつか見受けられる。

 一部の銀行にとってはやむをえない犠牲にすぎないだろうが、いまなお何百万人ものアメリカ人が──2008年および09年の推定400万人に加えて──自分の家から立ち退かなければならない。実際、政府の介入がなければ、差し押さえのペースは間違いなく加速するだろう。だが、住宅バブルの間に何百万件もの不良債権を生み出した銀行の無謀な融資に伴った手続きの省略や書類の不備、それに不正の蔓延が、その後の混乱の整理作業を厄介にしている。

 多くの銀行にとって、これらは無視すべきささいな問題にすぎない。自分の家から立ち退かされる人のほとんどは住宅ローンを返済してこなかったのであり、ほとんどの場合、彼らを追い出す側には正当な権利があるのだから。だが、アメリカ人は平均すると正義であるという考えをよしとはしないはずだ。終身刑に処せられている人のほとんどがその刑罰に値する罪を犯したのだから、そうでない人のことは無視すべきだとは、われわれアメリカ人は考えない。アメリカの司法制度はもっと厳密な正義を要求しており、われわれはこの要求を満たすために手続き上の保護措置を課してきたのである。

 だが、銀行はこれらの保護措置を省略したがっている。そのようなことが許されてはならない。