『週刊ダイヤモンド』10月29日号の第1特集は「コンビニを科学する」です。「開いててよかった」のキャッチフレーズで約40年前に誕生したコンビニは、今や5万店を超え、10兆円市場にまで膨れ上がりました。30坪の小空間と3000商品に凝縮された、コンビニの "売る極意"をお届けします。

 神奈川県川崎市の登戸駅前店──。この店こそ、セブン-イレブンの売り場改革を先導する〝実験店〟である。参謀役を担うのは山口圭介・セブン-イレブン・ジャパン執行役員・イノベーション推進部部長だ。

 プロジェクトの発端は、約4年前に鈴木敏文前会長から与えられた宿題にさかのぼる。「10年、20年先を考え、新しいことを提案しなさい」という自由課題だ。

 コンビニエンスストアは、現在、売れているモノを把握するのは得意だ。だが、それは将来も売れるという約束はしてくれない。20年後となると「激変は必至」としか言えない。何か突破口はないか。

 売れているモノそのものではなく、背後にある「コト」の方を追い求めてみよう。その将来のニーズから売り場を発想し、実験・検証していってはどうか──。

 山口執行役員の発想の元となった「コト」のリストは、A3用紙で3枚、300近くに上った。そこから生まれた新たな売り場づくりの例を紹介しよう。

 例えば、昼間のストッキングやタイツのニーズである。昼間、買い求める女性客には、破けるなどして、すぐはき替えたいニーズがあるのではないか。そうすると、売り場づくりの答えはおのずと出てくる。入り口に「化粧室」「着替え台」のマークを張り、売り場のPOPで「お着替えできます」とひと言アピールするのである。

 さらに、ストッキングなど女性向け商品は化粧品、洗剤などと共にメーン通路の同じブロックにまとめられ、男性用品とはゴンドラで隔てられている。「近くに男性客がいると何となく買いにくい」という女性客が「買い求めやすいように」との配慮だ。実際、2015年のストッキングの売り上げは、プロジェクト開始前の12年の実に3・6倍に跳ね上がった。

 メーン通路の店内奥には、他のコンビニにはあまりないアルコールコーナーが設けられている。

 ジョニーウォーカー、余市、山崎など2000円超のウイスキーの特設コーナーだ。その前には、500円超の「ゴーダチーズと生ハムロール」など〝ちょい高〟のおつまみが並ぶチルドゴンドラがある。自宅でゆっくりくつろぎたいお客に向けた売り場づくりだ。

 女性客を意識したワインの横には、ドライフルーツとナッツがさりげなく置かれている。家飲み用の定番おつまみといえば、珍味よりもこちらである。

 15年の来店客数は、12年の1・8倍。増加分の7〜8割は女性客だというのも得心がゆく。

 実験店に課されたのは「お客さんはどんなことを求めているのかをひたすら追い求め、実験と検証を重ね、売り場の改善につなげる」(山口執行役員)である。