英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は日本にとって大事な輸出産業になりつつある「MANGA」や「ANIME」における性描写について、東京都が規制を強化するというニュースを、英語メディアがどう伝えたかをご紹介します。日本がソフトパワーとして世界に売り込もうとしているマンガ・アニメ文化が海外から一般的にどう見られているか、耳の痛い話も含まれます。(gooニュース 加藤祐子)

日本のソフトパワーのはずが

 東京都議会は15日、青少年の健全な育成に関する条例の改正案を可決。強姦など性犯罪や近親相姦を「不当に賛美・誇張」して描いた漫画やアニメを 18歳未満の青少年に販売、閲覧させないよう規制することになりました。改正案の審議期間が短かったことや、「強姦等の社会規範に反する内容を不当に賛美・誇張する描写」などの表現が曖昧で主観的であることなど、出版業界を中心に反対・反発の声も強くあがったため、「作品に表現した芸術性、社会性などの趣旨をくみ取り、慎重に運用すること」などの付帯決議が付いています。

 その一方で、経済産業省が漫画やアニメを「ソフトパワー (soft power)」と位置づけて輸出産業として育てようと取り組むなど、日本の「manga comics」や「anime」が世界中のあちこちでファンを獲得していることは、日本でもよく伝えられている通りです。そこで、この東京都による「manga ban(マンガ規制)」について英語メディアがどう伝えたかをご紹介します。

 これは賛否両論がかなり激しく感情的に割れている話題だけに、この問題に関する私の意見というか立ち位置を、一般論として簡単に書いておきます。そうしないと、読み進みにくいと思うので。私は一般論として、児童ポルノはまぎれもない犯罪だし、たとえ「非実在」だろうと子供を題材にしたポルノはきわめて不愉快だし、子供の目につきやすいところでポルノ雑誌が売られている日本の状況は恥ずかしいことだと思っています。その一方で、公権力が表現を強権的に規制するのは恐ろしいことだと思うし、行政担当者が同性愛者をはじめとするあらゆるマイノリティーを差別・侮蔑するのは言語道断なことだとも思っています。以下は、そういうスタンスのマンガ大好き人間が、できるだけ水平な視線で選んだ、英語メディアの論調です。

 英BBCは「東京がマンガ規制を導入」という見出しで、条例改正は「一般に提供されるマンガや映像の性描写を抑制するよう業界に求めるもの」だが、複数の出版社が抗議し「東京国際アニメフェア」のボイコットを表明していることや、「改正案を提案した保守的な」石原慎太郎都知事が「当たり前だ。日本人の良識だ(It's the conscience of the Japanese)。自分の子どもにあんなの見せられるかね」と発言したことを説明しています。BBCが使った「conscience」という単語は通常は、「良心」と訳されるものですが。

 ロイター通信は「日本の漫画業界、18歳未満への新ルールに対抗へ」という見出しの記事を配信。記事は、出版各社が都条例改正を「表現の自由の侵害」と批判していること、日本雑誌協会など出版4団体で作る出版倫理協議会が「暴挙だ」、「今後も断固反対の姿勢を貫くとともに、来年7月の施行を見据え、さまざまな機会をとらえて行動を起こしていく」とする抗議声明を出したこと、それに対して石原都知事ら賛成派が「common sense(常識、良識)」だと称賛していることなどを並列しています。

 記事は加えてこの問題が、「ものすごく人気のある日本の漫画やアニメを世界中に輸出しようとする日本政府を、いささか難しい立場(in a bit of a bind)に追い込んでいる」と指摘し、菅直人首相が13日のブログで「青少年育成は重要な課題。同時に、日本のアニメを世界に発信することも重要」と書いたことも紹介しています。

 輸出産業としてのマンガ・アニメについては米『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記事
が、「露骨な性描写の漫画をめぐる問題は、日本の政策担当者にとっての難題を浮き彫りにする。マンガやアニメ映画は日本にとって主要な文化輸出品だが、業界イメージを海外で傷つけかねない暗い側面も、昔からずっとある。暴力的だったり性描写が露骨だったりする本や映画を子供に提供すべきでないことは、東京の新規制を批判する人の多くも認める」と書きます。

 英『インディペンデント』紙は、「『誇張されたマンガ』規制、日本の検閲が刃を研ぐ」という見出しの詳しい記事で、「マンガコミックは日本で人気だが、前より厳しい点検の目にさらされることになった」と書き、「年齢不詳なゲイの美少年が様式的なセックスをしている内容のものを、自分の子供に読ませたい本に挙げる親は、そうは多くないかもしない。しかし日本はもうずっと長いこと、マンガやアニメについては自由気ままな、時には目をむくような内容を容認してきた。そこに今、保守的な政治家たちが保守的な検閲によって規制を導入。規制に反対する人たちは、日本における数少ない成長産業がこれで打撃を受けることになると言う」と評しています。

 AFP通信は東京都が「extreme(極端な、過剰な、過激な)」性描写の漫画・アニメを規制するという記事で、「強姦や近親相姦やその他の性犯罪」を「不当に賛美・誇張する描写 (depicted in unjustifiably glorified or exaggerated ways)」ものを18歳未満に販売・レンタルすることは禁止されたと説明。

 記事は、石原都知事が「ずっと前から『不健全』な漫画に反対運動を展開してきた」とも書いています。出版社10社が「東京国際アニメフェア」のボイコットを表明していることや、「中道左派の」菅首相がブログで「『国際アニメフェア』が東京で開催できない事態にならないよう、関係者で努力して欲しい」と書いていることも紹介しています。

 そして背景説明として「manga comics」は日本では「大人にも子供にも人気で、扱うテーマは高校生の恋愛から古典文学まで色々だが、ポルノもあり、ポルノの多くはハードコアで暴力的だ」と書いています。さらに「児童ポルノの作成と頒布は日本で違法だが、所持は不法行為とならず、『非実在(non-existent)』な年少キャラクターを漫画やアニメ、ゲームで描写することも合法」と解説されています。

マンガ文化はどう見られているのか

 日本の漫画カルチャーが英語圏でどう見られているかについては、たとえばオーストラリアの『ABCニュース』が、「東京都、セックスマンガの販売に規制」という見出し記事で、冒頭から「マンガコミックはしばし、児童ポルノやハードコアポルノを描き、強姦や近親相姦やその他の性犯罪を過激に描写している。電車やカフェなど公共の場で普通に読まれている」と手厳しいです。

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