昨年の12月27日。暮れも押し迫ったこの日の午後、霞が関にある国土交通省の会議室には、航空局技術部に呼ばれ、困惑気味な国内のエアライン担当者たちの姿があった。

 招集の理由は「平成23年度以降の航空大学校の運営について」。事業仕分け第3弾で見直し対象となったため、民間エアラインへの負担増を要請することになったのだ。配布された資料の中には、国交省が割り振った各社の負担額表も入っていた。

 国交省によれば、主要エアラインで働くパイロットのうち、航空大学校出身者は41.2%。次いでエアラインの自社養成パイロット36.9%、防衛省出身者8%が続く。この割合だけを見れば、受益者である民間エアラインの負担増は当然のように見える。

 ところが、某新興エアライン関係者は「もう航空大学校の役割は終わったのではないか」と話す。最大手だった日本航空(JAL)が倒産したことで、大量のパイロットが流出。スカイマークをはじめ、新興エアラインのみならず、外国エアラインの募集に殺到している。

 倒産したとはいえ、世界中のエアラインと比較して、JALのパイロットは厳しく教育されており、出来がいいと言われている。特に今後、機材を大量購入し、国際線にも打って出る予定のスカイマークからすれば、千載一遇のチャンスだろう。

 当面はJAL出身者で手が足りるうえ、大手エアラインは自社養成にも積極的だ。航空大学校を卒業したところで、一人前のパイロットではなく、いわば「半人前」でしかない。どのみち教育をしなければならないわけで、なかには「自社養成パイロットのほうが教育が行き届く」という声もある。

 また、法政大学や東海大学など、私立大学でもパイロット養成コースを設ける大学が増えた。実際、仕分け評価者からも「基本は民間や私立大学で養成すべき」とのコメントを付けられた。

「採用しないのに、負担金だけ要求されても困る」。新興エアラインの中には、国交省の招集を蹴った社もあったほどで、総じて負担増に腰が引けている。

 しかし年が明けた現在、国交省はあくまで民間負担を増やして存続させるというスタンスにかたくなにこだわり、エアラインの説得攻勢に余念がない。

 というのも、航空大学校理事長のポストは国交省の天下り先。現在も国交省出身の殿谷正行氏が就任している。ちなみに、理事長の月俸は91万7000円。これに加えて諸手当や、年2回の期末手当(ボーナス)が付く。このおいしいポストを、やすやすと手放すわけにはいかないのだ。

 はたして今日においてなお、役所の無理筋は通用するのか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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