消費行動に大きな変化が起きている。その背景にあるのが、リニア(直線的)な豊かさの基準の崩壊と、価値観の多様化だ。製品・サービスを提供する企業側からすると、消費者像がますます捉えづらくなっているとも言える。変容する日本の消費はどこへ向かい、企業はどのような製品・サービスでそれに応えればいいのか、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.の清原正治日本社長に聞いた。

社会が決めた価値から
解放された消費行動

 いま消費行動における“豊かさ”への意識の変化が起こっている。かつて消費者は、社会が決めた豊かさのヒエラルキーに従って、消費生活の豊かさを判断していた。軽自動車よりスポーツカー、国内旅行より海外旅行、町の食堂より高級レストラン。

 だが、そんなリニア(直線的)な豊かさの基準は崩れ、消費行動では価値観の多様化が進んでいる。アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.の清原正治社長は、こう指摘する。

清原正治
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.
日本社長

「例えば車についていえば、環境を気にする人は電気自動車を、アウトドアが好きな人はSUVを、メカ好きな人はスポーツカーを、迷いなく選ぶ人が増えている。あるいは、車を必要としない暮らしこそが“豊かさ”だと考える人もいます。つまり社会が決めた価値基準ではなく、個々の感性に応じて多様な正解がある。他人ではなく自分自身が心から豊かさを感じられるものを、自信を持って選択するようになっているのです」

 リニアな豊かさというのは、1980年代後半から1990年代初頭のバブル期に絶頂を迎えたと見ることもできる。多くの人がこぞってブランド品を買い求めた行動などはその象徴と言える。そんなバブルが崩壊した後の失われた20年を経て、「日本人が自信を取り戻したのでは」と清原社長は指摘する。

 ただし自信を取り戻した結果、違う形に進化したのではないか、というのが清原社長の見方だ。「人と違うことに対する抵抗感がなくなってきたことも大きいと思います」(清原社長)。