98歳まで生きた栄養学の母が戦前に提唱した「バランスのいい食事」イラスト/びごーじょうじ

 毎日の料理に使う計量カップや計量スプーン。レシピに従い水1カップ、醤油大さじ2、みりん大さじ2、という具合に計量するだけで、誰でも簡単においしい料理を作ることができるこの道具。考案したのは誰かご存じだろうか?

 答えは香川綾。香川栄養学園や女子栄養大学の創設者にして日本栄養学の母である。紀州藩の食膳係を務めていた祖父の影響から幼い頃より食生活の大切さを教わった彼女は、東京女子医学専門学校(現・東京女子医科大学)を経て、東京帝国大学医学部の島薗順次郎の研究室で働く。女性の社会進出が珍しかった時代、お手伝いのような立場で、しかも無給という境遇だったという。胚芽米に含まれるビタミンB1に注目していた島薗の下で香川は研究を進め、脚気病の治療に取り組んだ。

 胚芽米を病院給食に取り入れてみると、脚気患者が薬も使わずに回復したという。薬ではなく食べ物によって人を健康にしたその経験はやがて香川を栄養学の道に進ませる。研究室で知り合った夫と共に家庭食養研究会(現・香川栄養学園)を設立、1935年には現在も続く雑誌「栄養と料理」を発刊した。