GEは「世界33万人の社員全員がリーダーシップを発揮する」というフィロソフィーを持っている。ここで言う「リーダーシップ」は、ポジションではなく、「変化を起こし、人を元気づけたり、動機づけることのできる影響力」を意味している。ただし、その目指すべきリーダーシップのあり方について、近年見方が変わってきている。

リーダーシップやチームワークの思想も<br />変わりつつあるGEの組織文化GEの人材開発の拠点である「リーダーシップ開発研究所」、通称クロトンビルでも研修内容にも変化がみられる(詳細は『GE変化の経営』をご覧下さい)

 33万人の社員1人ひとりが独立して考え実行できる人材であれば、変化の速度は増し、組織も安定する。その考え方に変化はない。ただし、ミレニアルと呼ばれる2000年以降に社会人になった人たちを率いるには、昔ながらのカリスマ型のリーダーによるトップダウンのリーダーシップは通用しないという危機感があった。

 目指すリーダーシップ増が目立って変化したのは2013年頃からだろうか。基本的な考え方として、若い世代を率いるには「参加型」でなければならないと考えられるようになった。

 若い世代はみな自分も参加したい、きちんと意見を聞いてもらいたいという気持ちを強く持っている。また、彼らは現代のスピード社会に合った思考・感性を持っており、それを吸い上げることが社会に適応することになる。「人の意見を聞き、周りの意見を吸い上げる」ことにリーダーシップの重点を置くようになってきた。

 会長兼CEOのイメルトが10年前、それまで使われていた行動指針「GEバリュー」の中身を「グロースバリュー」に改めた際、「包容力(Inclusiveness)」という項目を盛り込んだ。これは「周囲を巻き込むこと」、「人の意見をよく聞くこと」を意味するが、当時はそれほど強調された概念ではなかった。それを5つのバリューのうちの1つにしたということは、今後この点が重要になってくると感じていたからだろう。今回その要素は、行動指針がさらに「GEビリーフス」に変わって、新たに追加された項目「任せる(Empower)」「互いに高め合う(Inspire)」、さらに「試すことで学び勝利につなげる(=Learn and Adapt to Win)」によって、いっそう強調されるようになった。

 かつてGEで求められていた、トップダウン型の強いリーダーシップとは様変わりと言えるだろう。

▼業績よりもリーダーとしての資質を重視

 リーダーシップのあり方を再検討してきたのは、IT企業の急速な成長に危機感を感じたからでもある。経験も資産に乏しいながら彼らがなぜ大きく成長しているのかをベンチマークすることから始まった。

 調べてみると、彼らは服装も働くスタイルも自由で、上下関係もなく社員同士で言いたいことを言い合っていた。また組織もフレキシブルで、事に当たるときは即座に組織横断的なプロジェクトを結成する。それらは当時のGEとは正反対のカルチャーであり仕事の取り組み方だったが、彼らがそれによって伸びていることを素直に認め、気づきを得たのだと思う。

 それによって、GEの人材開発の拠点である「リーダーシップ開発研究所」、通称クロトンビルでのトレーニングに呼ばれる社員の資質も昔とは変わってきた。昔はどちらかと言うと、成果としてのパフォーマンスをしっかりと出した社員、トップの実績を上げた“実績”が重視された。

 しかし、最近は実績だけでなく、個々人の資質と可能性に目を向け、将来リーダーになれる人かどうか、という見方に変わっている。さらに、将来のリーダーとして、現状はどのようなギャップがあり、それを埋めるためにどのようなトレーニングが必要かを考えるようになった。

チームワークを重視した研修内容

 リーダーシップのほか、昨今のGEでは以前よりはるかにチームワークを重視するように変わった。トレーニングの内容も、チームでのディスカッションやチームが実際に直面している課題をその場で議論するなど、チーム重視のプログラムが急激に増えた。

 なぜかといえば、本当の意味でのチームワークができておらず、全社的に強化が必要な段階にあるという認識があるからだ。

 イメルトは「良いチームをつくるためにはコンストラクティブ・コンフリクト(constructive conflict:建設的な意見の対立)が必要だ」とよく口にする。健全な意見の衝突があってこそ、チームとしての力を発揮できる。

 個々が自分の意見を持ち、それを自由に発言し合えるような環境があり、みんなが他人の意見を真摯な気持ちで聞いて議論するという場があってこそ、本当のチームワークがつくれる。そうした面をもっと強化しなければいけないと考えているのである。

 かつてのように、カリスマ性のある強いリーダーが全体を引っ張っていく気風があった時代は、会議の時には声の大きい少数の意見が強く押し出されがちだった。しかし、それではほかの意見が埋もれてしまう。みんなが自由に議論し合う環境がなければ真の意味でのチームワークはつくれない。

日本人に求められる「建設的な意見の対立」

 この点で、日本の企業は立ち止まって考える必要があると思う。

 日本の強みはチームワークだとよく言われるが、チームワークの定義をはき違えているケースも見受けられる。ひとりが意見を言うとすぐ全員が「賛成」してしまう。それを見て、素晴らしいチームワークだと捉える人もいるが、私に言わせれば最悪のチームワークだ。

 人間である以上、心の中ではそれぞれみんな意見を持っている。強い個があって初めて強いチームができる。会社の方針が出たら「わかりました、頑張ります」となるのが日本企業の常だが、それでは建設的な意見対立は起こらない。

 「言いたいことはあるけれど遠慮しておいた」「反論するのは失礼だから控えておこう」では本当のチームワークは発揮できないのである。意見があるのに言わないというのは、逆にチームに対して失礼だとすら思う。

 いかに建設的な対立を生みながらチームワークを発揮していくか。このことは日本に限らず、GE全体としても大きな課題だと思う。だからこそチームワークを作るために、建設的な対立がリーダーシップ研修に取り入れられたのである。

 ただ、その捉えられ方は、国によって少々違うようだ。特に日本と西洋は大きく違っている。西洋の場合はどちらかと言うと、自分が言いたいことを言うばかりで相手の話を聞かない人たちに対して、自分の主張を押し通すだけでなく、相手の話を聞くことも重要だと教えられている。

 日本はその前の段階として、言いたいことが言えていない場合が多い。それは、突き詰めれば生まれ育った環境もあるだろう。日本では、小さい頃から学校で「黙って先生の話を聞きなさい」と教育されてきた。しかし、自分を主張しないとチームはつくれない。勇気を持って他人と異なる意見を言ってほしいと思う。

 さらにリーダーは、「下手な意見を言うと、あとでしっぺ返しされるのではないか」という懸念を部下に抱かせないような雰囲気づくりをする必要がある。そうした悪い意味の奥ゆかしさの打破に、いまトップとして懸命に取り組んでいるところである。