就職活動が「シュウカツ」と呼ばれるようになってから、随分経つ。だが、学生が「個性」を打ち出しながらも、企業が求める人物像に合わせていくという大筋には、変化がないようだ。

 就職活動「冬の時代」の昨今に限らず、選ぶのは主に企業の側なのだから。また、企業の求める人間像にも実のところ大きな変化はない。

 「体育会学生の優位性」をそのホームページでもうたう株式会社アスリートプランニングは、「東京六大学就職リーグ」「関西七大学就職リーグ」と銘打った企業説明会を開催している。いわば体育会系学生に特化した、有名企業との出会いの場だ。

 体育会系の学生が就活で有利なのは、今に始まったことではない。まず間違いなく体力があり、目標を定めた厳しい訓練を経験している。また、チームワークにも優れている(個人競技でもコーチや先輩が存在する)。

 そこに「偏差値の高い大学」という条件が加われば、アタマもいい(悪くはない)ということなる。まさに、企業にとっては欲しい人材なのだ。ただし早い時期から企業説明に人が集まるということは、体育会系の学生たちですら、有名企業や第一志望の企業への就職には焦っているのだろう。

 一方富士通は、2012年春入社の新卒採用で、スポーツや社会貢献、勉強、起業などで実績を挙げた「一芸に秀でた学生」の特別枠を3倍に拡大するという。これまでもスポーツ、社会貢献、起業などの経験を持つ学生は有利だったが、富士通の場合、そのための特別枠を設け、しかも「志望動機は訊かない」というあたりがユニークだ。「志望動機は関係ない」「ヒトとして優秀な人材なら何らかの役に立つだろう」という割り切った考え方とも言える。

 日本経団連が会員企業など596社から回答を得たアンケートによると、企業が学生に求めるものは「主体性」「コミュニケーション能力」「実行力」なのだという。また、最近の学生には全般に「主体性」が足りなく、能力面では「既存の価値観に囚われない発想ができる創造力」が足りないとの回答が多かったという。

 一芸に秀でることにせよ、主体性や創造力にせよ、それらはいつの時代も学生に求められていたものであり、新味はない。だが、選ばれる立場の学生にとっては難問だ。面接ではこれらのポイントをアピールしなければならないが、たとえ好印象を与えることに成功しても、より「秀でた」学生がいたら選ばれないのである。

 就職活動における企業と学生との「ないものねだり合戦」は永遠に続くと思われるが、先述のように選ばれる側の学生が圧倒的に不利である。救いなのは、企業サイドも「ほとんど全ての面で優れた人材」または「一芸に秀でた人材」が、全学生のほんの一部であることなど、承知の上ということだろう。

(工藤 渉)