「ウォール街で働きたいんです!」の絶叫で手にした内定

 学生「ウォール街で働きたいんです!今頂いたこの名刺の向こうにはウォール街が見えます!私はそこで働きたいんです!

 面接官「(しばらくの沈黙の後)あなたは、いつかはこの業界で働くことになるでしょうね

 それは、15年前に就活をしていた私が外資系証券会社の最終面接でほぼ絶叫状態で口にした台詞。そんなこと、それまで一度も面接で言ったことはなかったし、そういう想いみたいなものは言っちゃいけないものだとも思っていた。当時の私は、子どもじみていると思われたくなかったのかもしれない。

 学生時代にニューヨークを訪問した際、ウォール街で「くー! この雰囲気カッコイイ! ここで働きたい!」と思い、意気揚々として「Wall Street」というサインの前で写真を撮ったことがある。しかし、就活中はそんなことはほぼ忘れていた。憧れは志望理由にもならないと思い、完全に封印していたわけだ。それが、「もう最後の面接だ、後悔はしたくない」と思った矢先に、上の台詞が口を衝いて出てしまった。

 このエピソードは、研究室を訪ねてきた学生に、就活では熱い想いも重要だということを伝えるために持ち出したものである。実際、自分が企業で面接を受ける側に回ってもそう思わされることがよくあった。能力、志望理由、ストーリーなどは当然大事だが、最後の最後は熱い想いだと思う。

そうなんだ、憧れを持っていていいんだ~。それも大切なんですね」
と言って学生はほっとしたような表情を浮かべた。きっと「就活はこうでなくてはいけない」という思いでがんじがらめになってしまっていたのだろう。学生が続けた。

でも、先生みたいに特定の業界に対して熱い想いを持てる人って、そう多くはないと思うんですけど…」学生の顔が再び曇る。

「そういう憧れの業界は、パッと今すぐには思いつかないです」

「それはそうかも。でも、私の場合、業界に憧れていたわけではなくて、正確には場所に憧れたんだよね。実際、ウォール街に行く直前に訪問した国連本部もマンハッタンにあって、そこでもシビれたしね」

「“こくれん”ですか…?」

「うん、仕事内容は私もよく分かっていなかったけど、国連の現役社員が中をツアーで案内してくれるんだよ。それがすっごいカッコイイ女性でさ。『どうやったら国連で働けるんですか?』って聞くと、『まず3ヶ国語が流暢に話せて~』という条件が出てきて、こりゃダメだと思ってやめたんだけど」

「へえ~」

「あとは、状況に憧れるってのもあると思う。友達で人事系のコンサルタントをやっている人は、『毎日バンバンいろんなところに出張するような生活を送りたいと思っていたけど、今はそれが実現できて嬉しい』と言っていたんだよ。この人の場合は、特定の業界や職業に憧れていたわけではなく、状況に対して憧れていたわけだよね」