英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は捕鯨、スパイ機関、731部隊という3つの話題を並べます。「三題噺」と言いたいところですが話題が話題だけに不謹慎なので、それは控えます。この3つの話題が立て続けに「日本のニュース」として伝えられ、英語Twitterでも注目されてグルグル飛び交ったのは、日本人が好むと好まざるとに関わらず「日本がどう見られているか」を表す、一つの形だったと思います。(gooニュース 加藤祐子)

捕鯨中止を歓迎ツイート

 先週もちらりと触れたように私はこのところ中東・北アフリカ情勢から目が離せず、 Twitterやアルジャジーラ英語版のインターネット中継、そしてCNNやBBCなどに張り付いている毎日です。たとえばこれを書いている今などは、リビア・カダフィ政権によるあまりに残虐非道な国民の大虐殺に「人道に対する罪だ」とカッカきているのですが、それはさておき。

 そうやって英語メディアや英語Twitterに連日はりついていたところ、中東・北アフリカとは関係のない「JAPAN」の話が相次いで飛び込んできました。冒頭で書いたように何度も何度も。複数の人が「ねえ、これ知ってる?」「すごいよ」と話題を共有したがっていたのです。

 その話題の一つが、日本の調査捕鯨中止です。南極海での調査捕鯨が反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害で打ち切りとなったことについて、日本の新聞各紙はご承知のように、「暴力で調査 捕鯨中止は問題だ」(日経新聞)、「調査捕鯨中止 悪質な妨害行為は許されない」(読売新聞)、「調査捕鯨の中止『怒り禁じ得ず』 官房長官」(日経新聞)、「調査捕鯨中止 暴力に屈せず正当性貫け」(産経新聞)、「妨害で打ち切り 憤り」(朝日新聞)――という論調・語調でした。

 対してTwitterの英語ユーザーの間では、「日本が捕鯨中止!」と歓迎する速報ツイートが飛び交っていました。むしろ私が最初にこのニュースを知ったのも、こういう英語ツイートによってでした。そしてオーストラリアやニュージーランドの新聞論調は、日本とはかなり違いました。

 たとえば豪『エージ』は「Whales have won(クジラが勝った)」という見出しで、「鯨保護活動家たちは祝い」、前原外相らが遺憾の意を表明したことを伝えています。ニュージーランドの『サウスランド・タイムズ』は 「Weary of whaling? (捕鯨にくたびれた?)」という見出しの社説で、「日本が南極海での捕鯨の季節を早めに中止したと聞いて、がっかりする人は少ない。これはシー・シェパードの妨害キャンペーンにとって勝利だと、そこに一定の正当性を認めて評価してもいいだろう。この件の当事者双方とも、洋上で無謀かつ不埒にふるまっていたが。それよりむしろ、日本社会の変化によって捕鯨が追いやられているに過ぎないのだという様子に、元気づけられる」と書いています。日本社会の変化とは何より、日本人が鯨肉を食べなくなっていることだと。そして、「外国が日本のナショナリストで伝統的な右翼を偽善的に攻撃している」と反発していた人たちも、水産庁職員が鯨肉を受け取っていた問題などのせいで、「首をかしげるようになっている」と書いています。

 米『ニューヨーク・タイムズ』紙のマーティン・ファクラー東京特派員は、「捕鯨船への攻撃を受け、日本は船団を撤収へ」という見出し記事で、「日本の捕鯨船団引き揚げは、環境団体にとって最初の成功」と説明。毎年の捕鯨活動を「日本は科学研究のために必要なものだと主張しているが、それは商業捕鯨に対する世界的なモラトリアムを回避するための言い分だという批判もある」と両論併記しています。さらに、事実関係を説明した後に、「外国環境団体の圧力に屈したと見えるのを恐れ、捕鯨中止に抵抗があったと、日本の新聞は書いている」、「日本国内の捕鯨反対派は、調査捕鯨は時代遅れだと批判してきた。国際圧力を受けて民間水産会社は捕鯨から撤退し、鯨肉の 需要は減り続けている。今でも鯨肉を食べる日本人は少なく、調査捕鯨で得た鯨肉は冷凍庫に山積みにされるか、学校の給食用に子供たちに提供されている」とも解説しています。

日本にもスパイ機関を

 次に(捕鯨との脈絡はありませんが)、英語で「日本でスパイ機関が出来るらしいよ」と次々にツイートが回ってくるので何かと思ったら、これはオーストラリア発のニュースでした。元ネタはウィキリークスによって明らかになった米外交公電とのこと。

 豪『シドニー・モーニング・ヘラルド(SMH)』紙は 「日本が外国スパイネットワークを設置へ」という記事で、「第2次世界大戦以後、日本は初めて中国や北朝鮮への偵察や、テロ攻撃を防ぐ情報収集のため、対外情報機関を設置している。内閣情報調査室の直属に置かれる」と書き、イギリスのMI6やアメリカのCIAをモデルとしていると説明。ウィキリークスが入手した米公電によると、2008年10月当時に米務省情報調査局ランドル・フォート局長と内閣情報調査室の三谷秀史情報官が会談し、日本も「人間による情報獲得能力」を持つことが優先課題だと話し合ったのだとか(ちなみにこの「人間による情報」を諜報用語で「humint=ヒューミント」と言います)。さらに東京の米大使館発の秘密公電によると、福田・麻生自民政権が設置を決定 したものの「日本は自分たちが知識や能力、人材を欠いているのは承知しているので、ゆっくり進もうという決定がなされた」とのことです。

 特に眼を引くのが、北朝鮮に対する情報収集。日本政府は米政府に対して、金正日体制の情報、特にその指揮系統についての情報が欠けているし、金総書記の性格や考え方についての自分たちの最大の情報源は、独自の秘密情報源ではなく、総書記の料理人だった「日本人スシ職人」(おそらく藤本健二氏のこと)の手記だと認めたというのです。

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