せっかく専門性を高めても同一組織内では
ほとんどの人がそれを活かせない

 これからのビジネスパーソンは、単なるゼネラリストではなく自分の専門性を磨いて、市場価値を上げるべきだという話がよく言われる。これは本当だろうかと疑ってみる。

 企業に求められる人材の要件が高度化し、専門性が高まって来たことは紛れもない事実である。その意味では、企業のニーズに応えるために専門性を高めると言うことは理にかなっている。

 昔は営業マンがマーケティングを知らなくても、それ行けドンドン、あるいは義理人情浪花節で営業成績を上げることは可能だったのが、最近ではターゲット顧客をきちんと定め、適切なマーケティングミックスを構築し、自社のポジションを築いていかなければ、営業成績もついてこない。その意味で営業マンに必要なスキルが、接待の技術や営業トークから、論理的な思考やシステマチックな方法論に変わりつつあるとも言える。

 しかしである、マーケティングを極めた人間が営業本部長になれるのか、取締役になれるのかと言えば、はなはだ疑問である。マーケティングを極めた人間の中には、トップに上がる人もいるかもしれないが、たいていの人間は、マーケティング部門でそこそこの役職について終わるか、マーケティングとは全く関係ない部署のマネジメントに従事することになる。

 要するにせっかく専門性を高めても、ほとんどの人間はそれが活かせないまま寂しくサラリーマン人生を終わるのである。

市場価値と企業内価値の違いは
なぜ生じるのか

 どうしてそんなことになるかを説明しよう。たとえばある人間が、企業の中で経理の専門性を高めて、いろいろな資格を取ったり、企業の中で会計や経理のポジションばかり経験を積んだとしよう。彼は、途中までは重宝がられて活用されるが、経理課長になったあたりからその後の会社人生には暗雲が立ちはだかる。