リーマンショックから1年あまりが経過した今、新たな危機の火種が日本の銀行業界に忍び寄っている。

 発端は1月26日、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債に関する格付け見通しを、「安定的」から「引き下げ方向(ネガティブ)」へ変更すると発表したことだった。

 背景にあるのは、民主党政権の財政・経済政策。財政再建の遅れや、中期的な経済成長の向上を見込みにくいことなどが理由として挙げられている。

 といっても、市場に与えた影響は限定的だった。円安や長期金利の上昇が懸念されたが、来年度の予算編成などの段階で、ある程度「織り込みずみ」だったからだ。

 しかし、ひとたび銀行業界に目を転じれば、この格下げは大きな危機へと姿を変える。

 というのも、格下げが実施されれば、AAマイナスとなってシングルAの一歩手前。もし、シングルAまで転落すれば、世界的な自己資本比率規制に抵触、業務の継続さえ危ぶまれてしまうのだ。

 自己資本比率は、自己資本をリスクアセットで除して計算、リスクアセットは貸出金などの資産に、資産ごとに定められているリスクウエートを掛けて求める。

 国債に関して、これまでの格付けならリスクウエートはゼロ。それがシングルAになった途端、掛け目が20%となるため分母のリスクアセットは急拡大。結果、自己資本比率は規制を大きく下回りかねないというわけだ。

 それでなくても邦銀は、運用難の時代が続いたことで、国債をたらふく持っている。金融危機以降、安全資産への逃避傾向はさらに高まり、最近では毎月のように前年比30%以上という猛スピードで国債残高をふくらませ、邦銀全体では120兆円にまで達している。

 格下げの実施はまだ先の話だが、その間に事態が大きく好転するとは考えにくく、危機はひたひたと迫っているといえる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 田島靖久)

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