去る9月21日から5日間、サンフランシスコのモスコーネ・コンベンションセンター周辺は、オラクルのユーザー会議「オープンワールド」に参加する4万3000人の人々でにぎわっていた。

 モスコーネは、シリコンバレーのIT企業がコンファレンスを行う定番の会場だが、北館、南館、西館のすべてを借り切ったのは、最近ではオラクルくらいだろうか。同社は、分科会のために周辺のホテルの会議室をいくつも借りた上、顧客企業のランチ会場となるテントを張るために、ハイウェイにつながる主要道路まで閉鎖した。

 世界中からやってくる参加者でダウンタウンのホテルは満室になり、レストランの予約もいっぱい。アメリカの金融危機などどこ吹く風というバブルな雰囲気に、サンフランシスコのギャビン・ニューサム市長もホクホク顔で協力に乗り出したというところだ。

 数年前まで、オラクルと言えばデータベース開発企業という比較的地味な存在だった。反面、よく知られていたのは、まだ不完全なソフトウェア製品を強引なセールス手法で売りつける悪名の高さである。

 オラクルは、2003年に競合企業ピープルソフトに敵対買収攻撃を仕掛けたが、その容赦ないやり方はいかにもオラクルらしいと、関係者は頷き合っていたほどだ。

 ところが、ここ数年の間にオラクルはまったく異なった様相の巨大企業に変化した。まるでかつてのIBMのごとく、誰もが知っている安定した大企業というイメージなのだ。

 同社が扱う製品は今や3000種以上。データベースだけでなく、顧客管理(CRM)、企業パフォーマンス管理(EPM)、人材資源管理(HCM)などのソフトやそれらをパッケージ化した企業資源管理(ERP)プラットフォーム、ミドルウェア、インフラストラクチャーなど、企業が日々の業務計画に必要とするソフトウェアのすべてを垂直統合し提供している。

 垂直方向だけではない。水平的にも、かなりアグレッシブに様々な業界に攻め込んでいる。航空機、自動車、科学、通信、医薬、エネルギー、教育、政府など、そのリストは延々と続く。企業向けデータベース市場で50%近いシェアを利用して、そこに業界毎にサービスを付加する戦略で攻め続けているのだ。

 「オープンワールド」では、その上ハードウェアも加わった。ラリー・エリソンCEOが基調講演で発表したのは、ヒューレット・パッカードとの提携関係の元に生み出されたアプライアンス。これまで別々の場所で行われてきたデータの蓄積と分析処理を同じサーバーの中で行い、それを高速プロセッサー、高速ドライブ、高速ネットワークでサポートすることで、処理時間をこれまでの10分の1に短縮するというものだ。

 通常は冗談も飛び出すエンターテイニングなエリソンの基調講演だが、今年は専門的な技術説明にほぼ終始し、オラクルがお堅い巨大企業にすっかり変わってしまったことを感じさせた。

 オラクルの2008年第1四半期(6-8月)の売り上げは53億3000万ドルで、前年同期の45億3000万ドルより大きく伸びた。利益は28%増。新しいソフトウェア・ライセンス数はこの業界の健全性を測る目安とされるが、それも前年度から14%伸びている。