2011年3月11日。

巨大地震と大津波によって、ほぼすべてのインフラと行政サービスが機能麻痺に陥る中、異彩を放った「新しい動き」があった。

ツイッターやフェイスブックなどの「ソーシャルメディア」、災害情報や支援情報を瞬時に集約した「クラウド型技術」、そして寄付市場で起こりつつある変動。

本連載では、震災という逆境の中でこれらの技術が劇的に進化を遂げる様を描き出し、そこから、日本の新たな社会像を模索していく。

 

「奇跡」を実現した社会起業家からのエール


“My thoughts are with you and the people of Japan.”
「私の心は、震災と立ち向かう日本の人々と共にあります」


  ニューヨークから一通のメールが届いた。東日本を襲った大震災の翌日のことだ。

 差出人はエルミラ・ベイラズリ氏。国際協力の分野で驚異的な成果をあげるアメリカのNGO、エンデバーで政策担当副代表として活躍した女性だ。彼女は米国国務省でボスニア・ヘルツェゴビナ担当の主席広報官を務めた後、エンデバーに参画する。

 エンデバーは「奇跡」を実現したNGOの一つだ。たった、十数年間の活動で、ブラジルから、エジプト、南アフリカに至る世界11か国にまで活動を広げ、直接的な経済効果は年間35億ドル(約3000億円弱)に達し、これまで13万人以上の雇用の創出に貢献したという。アメリカの経済成長の原動力となった起業家とベンチャー企業に注目し、「起業家精神を輸出する」というコンセプトのもとに途上国の経済開発を支援する。

 非営利の世界に身を投じてからずっと、僕はエンデバーの活動に憧れ続けていた。営利と非営利の狭間を自由に行き来し、人々が欲する変化を圧倒的な規模で実現していたからだ。僕にとって、エンデバーは最も優れたベンチャーキャピタルであり、また、最も優れた国際協力機関だった。

 その僕に、偶然の出会いが訪れる。訪米使節団の一員としてエンデバーを訪れた友人から、彼女との座談会に招待されたのだ。国際社会における日本の役割、ベンチャービジネスと非営利の世界の融合、両者に求められる変化――。短いながらも実のある対話を交わし、彼女と意気投合する。

 震災後、彼女と連絡を取るうちに、「日本の状況を世界に伝えたい」という内容に話は変わっていく。その翌日――震災からわずか2日後――、僕は彼女とスカイプで会話をしていた。たった数十分だったが、その会話は彼女がフォーブズで連載するコラムに変わった。

 彼女のコラムは、日本人が持つ潜在的な力を的確に指摘していた。「彼女の温かい語り口と鋭い考察は、今の僕らの活動を勇気づけるだけではなく、今後の日本の活動の指針になる」。そう僕は直観して、震災の余波が押し寄せる中、あえて翻訳に取り組むことにした。

 ここから、彼女のコラムを引用しつつ、震災を機に明らかになった日本人の力とは何なのか、そしてこの未曾有の危機の中で何をなすべきなのか考えていこう。