この記事は、実話をベースとした日本初の「そうじ小説」である『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』の【第1話】を、全5回に分けて、公開するものです(その1はこちら)。

【 3 】


  それから1週間が経った。通勤の際に、公園をぬけるのが近道ではあったが、またあの老人に会うのがなんとなく嫌で、わざと遠回りして歩いた。
「拾った人だけがわかるんじゃよ」
  というあのセリフが頭の中でグルグルと回っていた。

 何度も消し去ろうとしたが、それは大きくなるばかりだった。圭介は理屈が先行するが、気になることがあると、とことん物事を調べる性分である。もう一度、あの老人に、「そんな意地悪を言わないで、ゴミを拾って得する理由を教えてくださいよ」と聞いてみたい気持ちが心の中で膨らんでいった。

 その日は、穏やかな五月晴れだった。工事の予定もなく、事務所で「お得意先へのFAX DM」をつくっていた。ふと気づくと、もう1時を回っていた。近くの食堂へランチを食べに出掛けた。

 田中エナジーは商店街の中にある。その何軒か並びには、幼稚園があった。「若葉幼稚園」という。黄色の鉄柵越しに、園内の広場で遊ぶ子どもたちを見ながら、通り過ぎようとしたその時だった。

 足元に、「コーン!」と何かが当たった。それは「空缶」だった。気づかずに、蹴飛ばしてしまい、音をたてて数メートル先まで転がってしまった。
  次の瞬間、圭介はその空缶に腰を屈めて手を伸ばしていた。手に取って、ハッとした。
(この空缶、どうしよう……)