『週刊ダイヤモンド』3月11日号の第1特集は「相続と贈与の大問題~争族と税金の2大災難に備える!」です。来るぞ来るぞと言われて久しい相続税の大増税時代がついに到来しました。最新の集計では「納税者」の数が8割も増加、もはや資産家だけの問題ではなくなりました。それ以上に深刻なのが家族の間でのもめ事、「争族」の問題です。本特集では二つの難題にどう備えるべきか、関連する最新の税制改正や判決も織り交ぜながら、たっぷりと解説します。

 首都圏に住む70代の高畠秋子さん(仮名)の元に税務署から一通の封書が届いたのは、夫が亡くなって6カ月後のことだった。

 開けてみると「相続税の申告等についてのご案内」と書かれた紙が入っていた。形ばかりのお悔やみの言葉の後にびっしりと書かれていたのは、相続税の申告を促す文言。

 さらには別紙の「相続税の申告要否検討表」と題された記載例を見ると、事細かに相続財産の記入の仕方が載っており、丹念にそこを追っていくと最後は「相続税の申告が必要です」という文言に行き当たる。

 正直、「申告するのは微妙かな」と思っていた高畠さん。「きっとこれは税務署に狙われている」と不安になり、知り合いの税理士の元に駆け込んだ。

 実は昨年あたりから申告が必要とみられる人に税務署がこうした文書を送り付けているという。封書の中には、持参書類まで明記して面談予約を呼び掛ける紙すら同封している税務署もある。

 国税庁関係者も「税務署が工夫してさまざまな文書を配布している」と認める。以前も同様の案内はあったが、「今の文書には申告させようという本気度を感じる」と複数の税理士が語るほどだ。

 ちなみに、申告が必要ないとみられる人には「相続税についてのお知らせ」という周知文を送っているにすぎない。

 背景にあるのは、言うまでもなく2015年の税制改正による相続税の大幅増税である。詳しいメカニズムは本誌の基礎編をご覧いただきたいが、相続税の課税対象額から差し引くことのできる基礎控除が6割に縮小されたのが大きく響いている。

 加えて、不動産価格の上昇や株価の回復で資産価値が増えたこともあって、結果的に相続税のかかる人が増えてしまったのだ。

 それが如実に表れたのが、相続税の申告実績だ。国税庁によると15年中に亡くなった人のうち、相続税を納めた遺族がいる人の数は10万3043人に上り、前年の5万6239人から83・2%も増えた。財務当局は事前に5割増えるとしていたが、試算を上回った。

 実際に相続税を納めた人(ただし、申告書の記載人数ベース)で見ると、前年より10万人増えて23万人に、これ以外にも、各種控除などで税金は払っていないが申告した人が同1万3000人増えて3万人に上った。

 東京・多摩地区を中心に相続案件を数多く手掛けている税理士法人弓家田・富山事務所代表社員の弓家田良彦税理士は「感覚的には東京では20%ぐらいが申告の対象になっているようだ」とみる。

 相続で大変なのは税金だけではない。増税にはなったが、それでもまだ亡くなった人の9割の遺族は申告の必要がない。本当に大変なのは相続が親族の争いの種となりかねないことだ。「相続」は「争族」といわれるゆえんである。

 家庭裁判所での調停や審判の件数を見ると、年間で何と1万4000件超にも上っている。訴訟嫌いとされる日本人が、家族間でしかも公の場でこれほどの争いを繰り広げている現実はちょっとした驚きだろう。

 争いのもととなっている遺産自体の金額は75%超が5000万円以下。もともとの母数が多いためという推察はできるが、それでも争いと金額の多寡は関係ないことが分かる。

現代の家族のあり方が問題を複雑に

『週刊ダイヤモンド』3月11日号の第1特集は「「相続と贈与の大問題~争族と税金の2大災難に備える!」です。

 2015年からの大幅増税によって、相続税がかかる人が激増しました。もはや、一部の金持ちだけの問題では済まされなくなっているのです。ではどうすれば節税できるのか、その解はこの特集の中にあります。

 税金の話よりも深刻なのが、家族間のもめ事でしょう。普段、心の中にいだいていたわだかまりが、相続を機に「争族」となって噴出するケースは珍しくありません。子供のいない夫婦や離婚、再婚をして子供がいる場合など、現代社会における家族の変容が、トラブルをエスカレートさせる要因となっていることも見逃せません。

 しかし、こうした争族は事前に準備さえしていれば避けられるケースも数多くあります。節税もしかりです。

 大切な家族と財産を守るためにどうすればいいのか、この特集を読んで、解決策の一助にしていただければ幸いです。