記憶力日本一、世界記憶力グランドマスターの技術をふだんの勉強に置き換えたら、どんなすごい勉強法が生まれるのか。そんな問いから始まった新刊『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる勉強法』。もともと記憶に優れていたわけでもないひとりの人間が、どのような変遷を経て、記憶力日本一になったのか? カギは、「メンタル」と「テクニック」のトレーニング方法にありました。

40代半ばで挑戦し、なぜ記憶力日本一になれたのか?(下)

記憶力日本一になるために必要だったのは……

 記憶力日本選手権大会への出場を決めたものの、決めた時点では大会に関する情報はゼロの状態でした。

 記憶術の基本は「イメージ」、つまり覚えるものを「絵」に変えて覚えます。

 これは世の中に存在するすべての記憶術において共通です。

 大会では覚える対象が「人の名前」「トランプ」「単語」「数字」「詩」といったものになりますが、それらをいかに速く覚えやすいイメージに変えられるかが記憶量を左右することになります。

 競技として臨むには、効率化のために自分独自の記憶テクニックを作り出す必要がありました。

 そこで、新しい記憶テクニックを編み出すことにしたのです。

 そのためにしたことは、自分の脳の中身を洗いざらい取り出し、そこからひらめきを得るというもので、これが本書で述べる勉強法のベースにもなっています。

 これを使い、まずは競技用のテクニックを完成させました。

 その後は自分で模擬問題を作り、練習を進めていったのですが、しばらくすると始めた当初には思いもしなかった、克服すべき課題が見つかったのです。

 ある日の練習ではよい結果だったのに、同じ条件で行った別の日の練習ではあまり記憶できないということがたびたび起こったのです。

 その違いは「集中力」にありました。記憶力は、メンタルの状態にかなり左右される能力なのです。

 練習でさえ、わずかなメンタルの違いが記憶量の差となって現れるということは、緊張状態になる本番では、その影響は非常に大きなものになるのは容易に想像できます。

 それからは技術的な練習に加え、集中力を鍛えることも同時に取り入れることにしました。最適な方法を見つけるために、いろいろと試行錯誤しましたが、常に意識していたのは「簡単にできる方法」にすることでした。つまり、誰でもできるようなシンプルな方法こそ集中するためには効果的だと考えたのです。こうして生まれた集中力のトレーニングは、非常に簡易で効果的なものになったと自負しています。

 これら「テクニック」と「メンタル」の両方のトレーニングを続けて、ついに記憶力日本選手権大会当日を迎えることになったのです。

 競技前には集中モードに入るためのテクニックを使い、そのおかげで練習のときと同じような精神状態で臨むことができました。

 そして全種目の競技が終わり、蓋を開けてみると、なんと初出場で優勝してしまったのです。しかも後で知ったのですが、その成績は大会史上最高得点というおまけ付きでした。

 つまりその瞬間、私は記憶力日本一になってしまったのです。