全米で話題沸騰中の21の睡眠メソッドを集約した、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。本連載では同書の中心的なメソッドを紹介していきます。食事、ベッド、寝る姿勢、パジャマ――。どんな疲れも超回復し、脳のパフォーマンスを最大化する「睡眠の技術」に注目です!

寝不足はこれだけ頭の働きを悪くする

寝不足は脳のパフォーマンスをこれだけ下げる

たゆまぬ努力が成功の大部分を占めることは言うまでもないが、賢く努力することだって同じくらい重要だ。それなのに、休むことなく働き続ける人が世界中にたくさんいる。そういう人は、朝から晩まで仕事漬けの日々を送りながらも、仕事の質が大幅に落ちてい
ることに気づいていない。

調査によると、24時間一睡もしない状態が続いた直後は、脳に送られるグルコースの量が全体で6パーセント減るという。つまり、それだけバカになるということだ。

寝不足のときに、キャンディやドーナツなどの甘いもの、スナック菓子といったでんぷん質を食べたくなる原因もこれにある。脳内からグルコースが減少すると、身体はできるだけ早く脳にグルコースを送ろうとする。生き延びるためにそうするのだ。このメカニズムは、遺伝子を通じて受け継がれてきた。狩猟採集時代に生きた私たちの先祖にとって、脳の働きが鈍ることは、捕食者の攻撃による死や、必要な食料を確保するための狩りや採集といった能力の著しい低下を意味したからだ。現代では、冷蔵庫のところへ行くだけで、寝不足の身体の訴えを鎮めることはできるが、グルコースの減少といった現象によってストレスが生じるメカニズムはいまなお健在だ。あなたの身体にも、しっかりと組み込まれている。

睡眠不足になるとグルコースが減少すると言ったが、実は、グルコースの減少は均等ではない。これが重要なポイントだ。睡眠不足になると、頭頂葉と前頭前皮質のグルコースは実質12~14パーセント失われる。頭頂葉と前頭前皮質は、考えるとき、複数の考えを区別するとき、人前に出たとき、善悪の判断をつけるときにいちばん必要となる脳の領域だ。夜更かしした翌日に、ちゃんと頭が働いていれば絶対にしなかったようなまずい判断をした経験はないだろうか? 誰にでもあるはずだ。

そういう失敗の責任は、一概に自分にあるとは言えない。なにしろ、いつもより鈍いバージョンの自分自身に、脳をのっとられていたのだ。

脳内の老廃物は睡眠中に掃除される

脳には老廃物を除去する独自のシステムが存在する。リンパ系とよく似たそのシステムは、グリンパティック系と呼ばれる。このシステムをつかさどるのは脳内にあるグリア細胞で、この細胞に敬意を払ってリンパの頭に「グ」がつけ加えられた。

脳は実にさまざまな働きをするが、その結果、大量の老廃物が生まれる。それらはすべて排除しないといけない。老廃物を取り除くことで、文字どおり、新たな成長や発達の余地が生まれるからだ。死んだ細胞の除去やリサイクル、有害物質の排除、老廃物の排出は、脳が機能するうえで絶対に欠かせない。

そして、このシステムと睡眠との具体的な関係が、ロチェスター大学メディカル・センターに属するトランスレーショナル神経医学センターの研究者らの手によって明らかにされた。眠っているあいだ、グリンパティック系の活動は目覚めているときの10倍以上も活発になるのだ。しかも、眠っているあいだは脳細胞が約60パーセント縮小するため、老廃物を除去する効率はさらに高まるという。

目覚めているときの脳は、学習や成長に勤しみ、脳の持ち主が活躍できるよう協力している。ずっと動きっぱなしなので、たくさんの老廃物が絶えずたまっていくが、そのほとんどは、睡眠がもつ修復の力で除去される。自宅のゴミを捨てるシステムがとどこおれば、家はあっというまに悲惨なことになる。

それと同じで、十分な睡眠をとらず、グリンパティック系が働かなかったら、脳内が大変なことになる。もっと具体的なことを言うと、有害な老廃物を除去する能力が脳にないことが、アルツハイマー病を発症する根本的な原因の一つだと言われている。

どんなときでも、睡眠には価値があるということを忘れないでほしい。自分に必要な睡眠をしっかりとると、パフォーマンス力が向上する。よりよい決断を下せるようになり、より健康を保てるようになる。睡眠は、避けないといけない障害などではない。身体が必要とする、自然な状態だ。ホルモン機能を高め、筋肉、細胞組織、臓器を修復し、病気から身体を守り、思考を最高の状態で働かせるためには、睡眠が欠かせない。夢の世界を避けて通ろうとしたところで、成功への近道にはならない。睡眠を適切にとって初めて、やるべきことの量と質が高まり、これまで以上に能力が発揮できるのだ。