大正時代から現代まで、その時代の経済事象をつぶさに追ってきた『週刊ダイヤモンド』。創刊約100年となるバックナンバーでは、日本経済の現代史が語られているといってもいい。本コラムでは、約100年間の『週刊ダイヤモンド』を紐解きながら歴史を逆引きしていく。今回は、福島原発をめぐる東電の損害賠償問題で浮上した「発送電分離論」を検証するとともに、電力会社9社による地域独占体制の問題点を考える。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)

東電の損害賠償問題で浮上した
「原発賠償機構新設」と「発送電分離」の矛盾

 現在の電力会社9社による地域独占体制は、1951年5月に始まった仕組みである(本稿では沖縄電力を除く。沖縄電力を含めると10社体制)。

 福島原発事故をめぐる東京電力の損害賠償問題に関しては、政府による東京電力賠償支援法案が準備されている段階だ。基本的には東電を現状のまま存続させ、債務超過に陥らない程度に資産を売却し、支払えない金額を新設する原発賠償機構を通して東電へ融資するというスキームだ。原発賠償機構へ出資するのは東電以外の電力会社と政府である。

 けっきょく、各電力会社も政府も、税金や電気料金から支払うわけで、最終的には国民負担になる。東電は融資される側だから返済しなければならない。債務超過にならないよう長期間にわたって返済するので、やはり電気料金を引き上げて賄おうとするだろう。

 ゼロ金利下、不良債権を10年間で100兆円処理した金融機関と同じようなものだ。金融機関はゼロ金利によって国民から移転された所得で償却したわけだから、けっきょく国民が負担したのである。もちろん、注入された公的資金の分は返済されているが、まだ、りそな銀行は全額を返済できていない。

 東電「支援」スキームでは原発賠償機構という新しい組織が介在することでクッションが入り、国民は幻惑されそうだが、ほとんど国民負担になることは目に見えている。

 一方、このスキームだけでは国民の支持を得られないと踏んだ民主党政権は、小出しに「発送電分離論」を流している。日本経団連会長は、「原発事故賠償と発送電分離は関係ない」と語っているが(5月23日)、関係はある。

 東電はどう考えてもすでに実質債務超過である。推定20兆円を負担できる企業などあるわけがない。しかも無限責任を負っている。東電本体で負担できないから業界全体で負担、そして政府負担、最後は国民負担になるわけだ。したがって、東電が資産をどこまで売却できるかで国民の負担額は決まる。そこで出てきたのが「発送電分離論」である。