成熟社会を迎えた日本。近年、人々の「働く意味」も大きく変わり始めている。行き過ぎた成果主義を見直し始めた企業も多い。自己実現のみならず、人々のニーズは多様になるばかりだ。企業はそうしたニーズをうまくマネジメントしながら、経営を進めていかなければならない。

そして今、震災という国難にも襲われ、日本は大きな変革を迫られている。この試練に日本企業はどう立ち向かうべきなのか――。長年、経営者として「変革」に携わってきた、NTTデータの山下徹社長に話を聞いた。

大きな転換が日本に求められている

――3.11の東日本大震災をうけ、日本企業の多くが試練の時を迎えています。この苦難にどう立ち向かうべきだとお考えですか? 

山下 徹 Toru Yamashita
NTTデータ 代表取締役社長
1971 年東京工業大学工学部卒。同年日本電信電話 公社入社。1988 年のNTTデータ通信株式会社(当 時)分社以降、産業営業本部長、ビジネス開発事業 本部長等を歴任。2004 年常務取締役経営企画部長、 2005 年代表取締役副社長執行役員を経て、2007 年6月より現職。同社の企業変革に長年取り組み続 けている。また、日本経団連「高度情報通信人材育 成部会」の部会長等も歴任。国際競争力の源泉とな る高度なICT人材の育成にも尽力している。

 今回の震災によって、日本企業のみならず、日本の社会システムそのものが大きな転換を求められる事態となりました。しかし、こうしたパラダイムシフトの流れは以前からすでに始まっていた、と私は考えています。

 なぜなら近年、日本で起きていた『2つの大きな変化』を強く感じていたからです。ひとつは“個人”の間で起こった変化、そしてもうひとつは“会社”で起こった変化です。

 今回の試練を乗り超えるためには、まずはこうした「変化」を敏感に察知し、理解するところから始めなくてはなりません。

――まず、“個人”の間で起こった大きな変化とは、どのようなものでしょうか?

 それは、人と人の結びつき、すなわち『コミュニティにおける変化』が進みつつあることです。私たちは今、「新しいコミュニティの台頭」と「既存コミュニティの衰退」という、時代の潮目を目の当たりにしています。

 新しいコミュニティの代表と言えるツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアは、バラバラだった人々の知見を結びつけるプラットフォームの役割を担っています。そこから得た情報を、プライベートで、あるいは仕事で有効活用する人も増えています。

 また、ソーシャルメディアは今や、リアルな社会を動かす力まで持ち始めています。アフリカ、中東諸国でフェイスブックが火種となり、大規模な反政府デモが起こったのは記憶に新しい事実です。

企業を取り巻く環境はますます複雑化

――新しいコミュニティが台頭する一方で、既存コミュニティが衰退しているとは、具体的にどういうことを指しますか?

 例えば「地域」です。例外も多くあるかと思いますが、少なくとも都市部におけるコミュニティでは、人間関係は希薄化しており、あまり上手く機能しているとは言えません。

「職場」においても、「ギスギス職場」「不機嫌な職場」という言葉が生まれたように、会社によっては個人主義が横行するケースも見受けられます。かつての連帯感を失っている職場も少なくありません。

 コミュニティを取り巻く変化は、人々が「コミュニティを獲得する者」「コミュニティから取り残される者」に二分される時代の予兆なのかもしれません。

――もうひとつの“会社”で起こった大きな変化とはどのようなものでしょうか?

 それは『経営環境の変化』です。

 この10年で日本企業のグローバル化は劇的に進み、もはや企業における国の概念はなくなりつつあると言えます。

 その一方で、企業活動にはコンプライアンスやCSRといった新たな役割も加わり、良き企業市民としての「公器の経営」も求められています。また、社員のモチベーションやメンタルヘルス、ワークライフバランスといった面での配慮も欠かせません。

 このように、企業を取り巻く経営環境はますます複雑なものとなっており、会社の舵取りの難易度は急速に高まっています。

 もはや、ひとつの課題や問いに対する“絶対的な答え”はなく、むしろ、あらゆる選択肢の中から、より意味のある結論に迫る力が求められています。

 経営陣や一部の人間のリーダーシップだけでは企業を牽引できない時代だと言えるでしょう。