「書籍づくりの匠」、前回に引き続きブックデザイナーの松昭教さんにお話をうかがいます。装丁を始められた経緯や編集者との意図の共有といった前回のお話から、今回は少し意外な色のこだわりやアイコンに秘められたブックデザイナーとしての考え方を語っていただきました。

「特色」を選ぶ際の意外な決め手

——引き続き、印象に残っている装丁のお話をうかがいたいと思います。

松 昭教(以下、松) これは何か1冊ということではないのですが、ある編集者さんとは毎回色についてちょっと変わったやりとりをしています。

 業界の方はもちろんご存知だと思いますが、印刷所へデータを入稿する際、色に関しては大別して2つのパターンがあります。ひとつは色をCMYK(青系のシアン、赤系のマゼンダ、黄色のイエロー、黒の4つの基準色)に分解して、その4色をかけ合わせて表現するもの。もうひとつは「特色」と言われる色の番号を指定して表現するものです。写真素材や着色されたイラストを装画として使用する場合にはCMYKの4色を用います。一方、ビジネス書でも多いのですが、イラストなどを使用せずにタイトルと著者名を目立たせたいという場合には特色を何色か選んで使用します。ダイヤモンド社さんの本でも特色で作るケースは多いですね。例えば、黒とオレンジの2色で作ったりとか。

——たしかに、実用系の書籍はシンプルなデザインのものが多くて、その場合は特色をする場合が多いですね。

 日本ではDIC(旧 大日本インキ)がインクの調合割合などを決めた「DICカラー」という特色が一般的です。2000色以上あるカラーガイドがあって、「DICの〇〇番」というように各色にナンバーが振り分けられています。

 で、通常のカラーは3ケタか4ケタのナンバーが振られているのですが、それとは別に「日本の伝統色」「中国の伝統色」「フランスの伝統色」というシリーズがあって、まあナンバーで指定するのは一緒なんですが、それぞれの色に名前と由来のようなものが書いてあるんです。

——どういったものですか?

自分が積み上げた壁を越える<br />ブックデザイナー 松 昭教(後編)

 例えば、「サングリエ(F256)」という名前の色は「ヨーロッパに住む猪の毛の色」とか、「グリー・オラージュ(F146)」は「急激な大気の変化によって起こる暴風雨の中のグレー」とか。納得のものもありますが、「うーん、そう、かな?」というようなものもあって(笑)。