日本の中小不動産業者が、中国人顧客の開拓に本気だ。すでに中国事業部を設立する企業や、中国人社員を雇って営業活動に乗り出すところもある。さらに、中国人社員を雇って宅建を取らせる企業もあれば、中国語通訳を立ち会わせ7時間もの長丁場に汗だくで臨む「重要事項説明会」もある。

 昨今は経験の蓄積とともに「購入者の素顔」というのもあぶり出されるようになってきた。中国人投資家に物件を紹介したという担当者は印象を次のように話す。「値引き交渉が想像以上に激しい。また、テーブルを挟んで事務的に対応するのは好まない」。

「購入にしたのは担当者個人を気に入ったため」というケースもあるが、担当者本人は「24時間ところかまわず電話してくるので対応が大変だった」ようだ。

 確かに中国でも、購入検討者と担当者は買い手と売り手という関係を超え、購入後も「冷蔵庫が壊れた、携帯をなくした」など購入者個人のサポート役を求められることがある。

資産1億円以上の富裕層で
高まる移民熱と海外投資

 3月11日までは、投資と実需の両方において交渉や取引が存在していたようだ。販売の現場からは、「東京で最高級の物件を案内してくれとの依頼があった」「ファミリー向け戸建ての成約に立ち会った」などの声が上がっていた。

 それでは当時(3月11日以前)は、日本の不動産は中国の富裕層にとって何が魅力だったのだろうか。実は、中国における海外移民ブームや海外投資ブームと無関係ではない。

 中国では今、留学熱や移民熱が異常に高まっている。上海市内でもあちこちで移民セミナーや移民見本市が開催され、テレビでも「移民」をテーマにした番組が放送されることも珍しくない。富裕層にとっても、これから将来を築こうとする若者にとっても、“国外脱出”は視野に入れずにはいられないひとつの潮流になりつつある。