外食のロイヤルが社員向けに決算説明会と経営塾を開く理由Photo by Yoshihisa Wada

「会社は誰のものか」を社員に伝える理由

 2010年にロイヤルホールディングス(HD)の社長に就任してから、従業員向けに始めた2つの取り組みがある。1つが決算説明会で、もう1つが「経営塾」だ。

 決算説明会を始めた理由は、会社の現状を知ってもらうのはもちろんだが、従業員の現状に対する納得感を高めなくてはならないと考えたからだ。

 例えばロイヤルホストの従業員に、「天丼てんやはどんどん出店しているのに、なぜロイヤルホストは業態転換はするが出店はないのか」という疑問やわだかまりが残っていれば、サービスや調理の現場で最高の価値を発揮してもらえない。納得感を醸成するにはどうしたらよいだろうかと考えてのものだった。

 最初は本部で実施をするだけの小さな集まりだった。そうしたら「こういう説明会は、現場の店舗の従業員にも聞かせたい」と言ってくれるようになり、私が出かけて行くことにした。中間決算と本決算の2回、札幌から沖縄まで全国10カ所以上に集まってもらって説明している。

 決算書のなかには、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)といった用語も出てくる。「株主はROEを重視するようになっています」と説明しても、「ROE、なんですかそれ?」と言う人も少なくなかった。やはり教えていかなければならない。そこで始めたのが経営塾である。

 経営塾は毎年6ヵ月間、月に一度、朝7時半から9時まで開いている。つまり計6回、9時間学んで修了だ。すでに受講者は500人を超えた。参加者を募集したら大阪や福岡でも希望者が多いので開講することにした。現在開講している第7期では1チーム約30人で、東京に2チーム、大阪と福岡に1チームずつあるので、毎月飛び回っているような形になる。

 6回の講座メニューは、「ROAやROEとはなにか」「企業価値とはなにか、実際に計算してみる」「上場とはなにか」などだが、必ず1回目に「会社は誰のものか」をテーマにしている。

 個人的には、「会社は誰のものか」という設問自体はナンセンスだと思っている。より大事なのは、会社の存在意義とはなにか、であろう。それでも初回のテーマとするのは、このテーマが会社の存在意義を考える糸口になっていくからだ。

 現在、企業活動を取り巻く環境のなかで最も先鋭的な対立を見せているものはなんだと思われるだろうか。企業VS株主だろうか、事業活動VS規制だろうか。私は、「ステークホルダー間の利害対立」だと感じている。つまり株主やお客様、従業員、企業を支えてくれている地域社会などが期待する事柄と、事業活動の両立が難しくなっている。

 例えば宅配便の人手不足問題では、「お客様のご要望を聞きます」という充実したサービスが、従業員の過重労働なくしては支えられなくなり、従業員の負担を軽減するには荷主に値上げを要求せざるを得なくなっている。コンビエンスストアもそうなるかもしれない。新規出店はすでに飽和点にあり、売り上げも従来のようには増えない。そうしたなかでフランチャイジーと株主の両方の利益を増やすための方策が見えなくなり、結果として利害対立につながる可能性がある。