「週刊文春」の現役編集長が本を著したことで話題になった『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)。発売から約4ヵ月、未だにさまざまな方から感想が届いている。

作家のはあちゅうさんも本書に感想を寄せてくれた一人だ。著者の新谷氏とも面識があるという、はあちゅうさん。「刺されるなら新谷さんがいい」とまで言わしめる、著者の、そして本書の魅力とは何なのか? はあちゅうさんのインタビューをお届けする。(編集:新田匡央、写真:宇佐見利明)

根本にあるのは「人をおもしろがらせたい」気持ち

――新谷さんとは一度ランチをご一緒されたとお聞きしました。お会いする前と後で、印象は変わりましたか。

はあちゅうさん(以下略):もう少しごっつくて、険しい方だと思っていました。会う前に持っていたイメージは幻冬舎の見城徹社長のような、背中に虎が乗っているような強い、どんとしたオーラを持った人です。でも実際にお会いすると、拍子抜けするくらい、威圧感がない。赤い炎と言うより青い炎というか……そして、思った以上に茶目っ気があり、チャーミングな方という印象を受けましたね。

「タレントとメディア関係者は読んだほうがいい」<br />―はあちゅうさんは『「週刊文春」編集長の仕事術』をこう読んだはあちゅう
ブロガー・作家。1986年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。在学中にカリスマ女子大生ブロガーとして活躍。電通、トレンダーズを経てフリーに。『半径5メートルの野望』(講談社)など著作多数。

 ただし、本の中にも「文春にやられたなら仕方がない」「君に書かれるならしょうがない」という記述がありますが、そう言われるような「人たらし」の匂いがしました。

 仕事柄、編集者という職業の方にお会いする機会があります。多くの方は情熱がたぎっていて、前のめりに言葉をぶつけてくる。けれど新谷さんは、飄々と一歩引いているように見えて、切り込むときには躊躇しない「怖さ」を感じました。

――「怖さ」ですか。前回お話をお聞きした映画プロデューサーの川村元気さんも、新谷さんに怖さを感じたとおっしゃっていました。

 川村さんのインタビューを読んで、私も同じことを思ったんです。何を考えているかわからない人がいちばん怖い。新谷さんは、凛としているけれど、同時に言葉にしづらい「得体のしれなさ」もあります。しかも、日本刀で斬り込んでくるような、わかりやすい怖さではなく、いつの間にか毒殺されていたという知能犯のような怖さかもしれませんね。

――新谷さんは、心の核の部分では人間が大好きで、悪いことをしてしまうような人間であっても面白いと思っている節があります。そんな「人間好き」の雰囲気が出ているから、人を油断させたり、人から嫌われたりしないのかもしれませんね。

 そうですね。私は身内が「刺された」ことがあるので、ゴシップ誌に対しては複雑な思いがあります。でも、もし刺されるのであれば、新谷さんがいいですね。相手を貶めようという下品なやじ馬根性ではなく、対象をきちんと人間として見てくれると思えるからです。

「タレントとメディア関係者は読んだほうがいい」<br />―はあちゅうさんは『「週刊文春」編集長の仕事術』をこう読んだ

 たぶん新谷さんの根本にあるのは、世の中の人を面白がらせたい、世間がひっくり返るようなことを伝えたいという気持ちだと思います。お笑いのようなわかりやすい「笑い」ではないですが、知的な「面白さ」を提供していきたい方なんだと思いますね。

――この『週刊文春編集長の仕事術』のなかで、はあちゅうさんの心に引っかかった部分があればお聞かせいただけませんか。

 本のタイトルは「仕事術」となっていますが、読んでいると「人脈術」のように思えるお話が多く、そこに共感するポイントが多かったですね。

 気になったのは、22ページの「情報収集の原点は『人から人』」「用がなくても、幅広く、連日連夜、日常的な付き合いをしておくことが大切」という言葉です。26ページの「情報はギブアンドテイク」という言葉も、新谷さんの言葉として聞くと重みがありますね。

相手からもらうことしか考えていない人は大嫌い

 私も、相手から「もらう」ことしか考えていない人が大嫌いです。いつも相手から「もらう」ことしか考えていない人は、成果を出すことはできないと思っているので、新谷さんの「相手からもらったら自分も返す」という姿勢が、豊かで実りある人脈につながっているのだろうと思いました。43ページには「新谷さんに殴られるなら仕方ない」という閣僚の言葉が出てきます。この言葉が新谷さんのお人柄をよくあらわしていて、人脈術の真骨頂のようで印象深かったですね。

 46ページの小見出しには「すごい人ほど社交辞令で終わらせない」とあります。私が尊敬する年長者の方々とお会いすると、みなさん、絶対に社交辞令は言いません。お会いしたときに「やりましょう」とおっしゃったことは、口だけではなく実際にやっていらっしゃることに感動します。同じレベルにいらっしゃる方は、考え方や感じていることがすごく似ていて、到達するゴールは同じということを痛感させられます。

 また、48ページには「肩書きで人と付き合わない」と書かれています。肩書きがある方ほど肩書きで人と付き合っていないことは、私も普段のお付き合いのなかでよくわかっています。新谷さんの言葉には「そう、そう」と思える言葉がたくさんありましたね。

 ほかにも、93ページにある「酒のつまみになるタイトルかどうかも意識する」という部分が、ネット的な感覚で印象に残っています。私もブログで記事を書くときやSNSで発信するときに、読者がかぶせてくる「つっこみ」を考えながら書いています。つっこみどころや、反感を買うかもしれないけれども面白い部分、異論や共感を際立たせることをあらかじめ考えておくのです。そのバランス感覚を持っているということは、新谷さんは非常にネット的なのではないかと思いました。

――あえてつっこまれそうなところをつくるという発想は面白いですね。

「タレントとメディア関係者は読んだほうがいい」<br />―はあちゅうさんは『「週刊文春」編集長の仕事術』をこう読んだ

 私は「つっこまれビリティ」と呼んでいます。つっこまれる+アビリティ(能力)=つっこまれビリティ。完璧に正論を言ってしまうと、感想は「そうですよね」としか言いようがありません。正論の記事でも、つっこみどころやちょっと抜けたところをつくってあげると、人はそこに乗って反応してくるのです。ネットメディアで話題になるには、そういう「抜け」がないと広がっていかないのです。

 この意見はどうしても訴えたいと思ったときには、そんなことを考えながら原稿を書くことにしています。

 ただ、あらゆる世代がネット使うようになってきたので、予測もしなかった反応が返ってくることも増えています。先日、大阪でおいしいうなぎのお寿司を食べたのでツイッターにアップしました。そのツイートが1万件ほどリツイートされたのはよかったのですが、一方で3件ぐらい「死ね」みたいな反応がありました。

「うなぎは絶滅危惧種なのに、それを食べていることを広めるようなヤツは死ねばいい」みたいな感じでした。これはさすがに予測できませんでした。思いもよらないところで反感を買われる意外性は、だんだん増えてきています。もちろん気持ちのいい反応ではありませんが、いつかどこかでネタにできると思って、前向きにとらえるようにしています。

――SNSを使いこなしている人は、他人の反応も予想して発言しているのですね。

 どうしてもつながっている人のことを考えてしまいます。

 先日、久しぶりに会った友人から、新婚初夜で妊娠したという話を聞きました。ただ、その話を飲み会でできないということでした。その場には、不妊治療を頑張っている夫婦が二組いて、妊娠したことすら話しにくいのに、初夜で懐妊した話なんか絶対にできないと言っていました。

 相手の感情のことを考えて、自由に発信できないのはネットでもリアルでも変わりません。むしろ、ネットの世界で相手の反応を考えながらやり取りすると、リアルなコミュニケーションが鍛えられると思いますね。

ネットとリアルを行き来しながら人間関係を構築しよう

――新谷さんも、SNSを使いこなすべきでしょうか……。

 それは新谷さんのスタンス次第ですね。今のところ、新谷さんはSNSでは発信しないという使い方なのだと思います。それも一つの使い方です。ブログ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムとたくさんの発信メディアを使っていて思うのは、すべてのメディアに時間を割くことはできないという点です。新谷さんは、今は週刊文春に100パーセント注ぎたいという気持ちがあるのでしょう。言葉を大切にする仕事だからこそ、言葉を間違えると炎上したり、誰かの反感を買ったり、誰かに迷惑をかけたりしないように、今はやられていないのかもしれませんね。

 ただ、ネットがらみで一つだけ異論があります。20ページに「本当の信頼関係はSNSでは築けない」と書かれていますが、私はその考え方とはちょっと別で、SNSで信頼関係は深めることができると思っています。SNSを見て相手の近況を知り、今は「裏アカ」を持っていたりする人が増えているので、そこで出る本音や日常から相手の本質を知るなど、SNSも上手に利用すれば、信頼関係を深められるというのが私の考えです。

――新谷さんとは、世代の違いもあるのかもしれません。

 ネットは、単なるバーチャルな空間ではありません。一つの新しい世界です。フォロワー数が多いことが仕事につながったり、お金が儲けられたりする時代です。ネットをバーチャルな空間だと考えるのは、もう古いと思います。私は、ネットはリアルの世界よりも本音が見える場所だと思っているので、実物としての人格とネットでの人格の両面を、表裏の落差も含めて知ることが必要な時代になっていると考えています。

 むしろ、現代の人間関係のベースはすべてネット上にあると言ってもいいかもしれませんね。誰とつながっていて、誰と仕事をしているのか。どのようなニュースをシェアしていて、誰の言葉に「いいね!」をしているのか。それを材料にその人がどのような人格なのかを読み解くのも、大事なスキルになると思います。サイバーエージェントの藤田晋社長が「インターネットというのはバレバレメディア」でネットの人格と本人の人格は乖離していないとおっしゃっています。ネットでは悪い人だけど、本人はいい人だったというのはあり得ない。私もそう思います。

 逆に言えば、ネットの世界だけで本物の信頼関係をつくることもできません。ネットだけに頼らず、かといってネットをないがしろにするのではなく、ネットとリアルを行き来しながら、人間関係を構築していければいいかもしれませんね。

「タレントとメディア関係者は読んだほうがいい」<br />―はあちゅうさんは『「週刊文春」編集長の仕事術』をこう読んだ

――最後に、この本はこういう人が読むといいのではないかという対象はありますか?

 私は、芸能人とメディアに関わる人は読んだほうがいいと思います。芸能人は自分が切り込まれる対象にされているので、その相手を知っておいたほういいという意味で言っています。自分が狙われるのは恨まれているからではなく、相手が自分に報道する価値があると思っているから。そういうことは知っておいたほうがいいでしょうね。

 コンテンツ業界の人は、文春のネットでの戦い方が参考になるかもしれません。文春が高いレベルのメディア改革をやっていることが、あまり伝わっていないような気がします。LINEニュースも文春がいち早くやっているので、コンテンツの売り方に対するインスピレーションが湧くと思います。注目されるものには、注目されるだけの理由があります。文春砲という面白さに引っ張られたり、単純に文春批判をしたりするだけではなく、学ばなければならないことは「敵」からも学ぶ必要があると思います。

――ありがとうございました。