「考えすぎていないか?」
誰にも言えないアイデアを胸に抱えて悩む人たちと、これまでに4万人以上面談した「非営利ベンチャーキャピタル」エンデバーのCEOリンダ・ロッテンバーグによると、「最初の一歩」で悩む人に共通しているのは、すべてのこの「考えすぎ」が原因だという。そして、アイデアを実現するためには入念な計画書が必要、というMBAふうのアドバイスに、疑問を投げかける。
シリコンバレーから中東、アフリカ、そしてブラジルのスラム街まで、世界中で600社、1000人超の起業家を支援してきた彼女だからこそ言える、「本物のアドバイス」を、シェリル・サンドバーグも絶賛する著書『THINK WILD あなたの成功を阻むすべての難問を解決する』からご紹介しよう。

インテルの事業計画書はたった◯◯文字!?アイデアを実現するためには「入念な計画書」が必須だと考えていませんか?

計画を終わりにして、行動を起こそう

 2013年、わたしは朝の情報番組『トゥデイ』の、「アントレプレナーを支援する」というコーナーにゲスト出演した。もうひとりのゲストは、MBAを取得したインターネット起業家である。その女性は新規事業に乗り出すにあたって、75ページもの事業計画書を書き上げたという。そして、視聴者にも同じように入念な計画書をつくるようにアドバイスした。わたしは、危うく椅子から転げ落ちるところだった。わたしはこう言った。「それには、とても同意できませんね」

 いや、待ってほしい! とあなたは言うだろう。アイデアを実行するために段階的な計画書が必要なことは、誰でも知っている。クレイジーなアイデアが浮かんだら、計画書をつくったほうが、もっともらしく見えることは、誰にも異論がないはずだ。数字を書き込み、業界用語をちりばめ、予測を立ててグラフも掲載する。パワーポイントを使って、上司や友人や恋人が思わず唸るような資料をこしらえる。誰でもそうやって事業計画を立てるべきだ。

 だが、それについてわたしからひと言。その“誰でも”は間違っている。この段階で重要なのは計画を練ることではなく、行動を起こすことだからだ。

考えすぎていないか?
――南アフリカの連続起業家からの忠告

 ヴィニー・リンガムは、アパルトヘイト(人種差別・隔離)政策を取っていた、南アフリカ共和国の東ケープ州で生まれ育った。インド人居住地で少年時代を過ごし、映画『ウォール街』を観て、「大きくなったら自分も成功するんだ」と誓った。リンガムはいつしか、起業するという夢を抱くようになる。小学生のときにはステッカーを売り、大学時代にはロックバンドのマネジメントも行った。2003年、最初に勤めた会社を辞めて自宅も売り、婚約者とふたりの友人を説得して、4人でオンラインマーケティング会社を創業した。こうして、子どもの頃から夢見たアントレプレナーの人生を手に入れたのである。

 だが、リンガムは満足していなかった。新しい問題を見つけたからである。小さな企業のほとんどは資金不足か、ウェブサイトをこしらえるノウハウがない。そこで彼は、オンラインマーケティング会社を人に任せて、新しく「ヨラ」を創業した。ウェブサイトビルダーと無料レンタルサーバーを提供する会社である。するとすぐに、グーグルが進める大きなプロジェクトのために声がかかり、ヒューレット・パッカードからは、自社が販売するコンピュータにヨラの製品をプリインストールしたいと持ちかけられた。

 2009年、『ビジネスウィーク』誌は、ヨラを「知っておくべきスタートアップ50社」に選んだ。数年後、リンガムはまたも新しいスタートアップを立ち上げる。グーグル・ベンチャーズ(グーグルの独立投資部門)の支援を受けた、「Gyft(ギフト)」という、モバイルギフトのアプリを提供する会社である。

 次々に事業を立ち上げるリンガムは、すぐにシリコンバレーで存在感を放ちはじめた。やがて彼は、アントレプレナーに共通する特徴に気づいたという。考えすぎ、計画と分析に時間をかけすぎることである。わたしが司会を務める討論会に、リンガムなどのアントレプレナーを招いたときのことだ。「みなさんは考えすぎなんです」。リンガムが金融関係の聴衆に話しかける。「アイデアについて話しあい、理論を勉強し、事業計画を書くために時間をかけすぎて、実際に試す時間が足りないのです」。そして、その弊害を指摘した。「紙の上で完璧な事業計画を仕上げたときには、私みたいな人間が、とっくにあちこちの顧客と契約書にサインを済ませてしまっていますからね」

 そう考えるのはリンガムだけではない。エンデバーの1000人近いアントレプレナーを対象に調査を行ったところ、事業を立ち上げた際、彼らの3分の2が正式な事業計画を書いていなかった。80%以上が半年以内に最初の製品を世に送り出し、約半数がビジネスモデルを最低でも1度は変更した。

 この傾向は、エンデバーのアントレプレナーに限った話ではない。ビジネス誌の『インク』では、毎年「インク500」と銘打って、成長著しいアメリカの企業ランキング500社を発表する。その500社の創業者を対象に行った2002年の調査によれば、新規事業に乗り出す前に正式なマーケットリサーチを行った企業は12%にすぎず、正式な事業計画を書いたケースも40%にとどまったという。事業計画を立てた者の3分の2が、計画書は役に立たなかったと答えた。マイクロソフト、ピクサー、スターバックスは事業計画には従わなかった。インテルの事業計画書は、たったの161文字しかない。「and」やスペル間違いを数えても、それだけの文字しかないのだ。