大学卒業予定者の就職活動の苦戦が伝えられる一方、志望者の偏りや求職・求人のミスマッチが指摘されている。そうしたなかで、就職に確かな成果を上げている大学が少なからず存在する。多角的なキャリア形成支援のプログラムを提供し、学生の潜在的な能力を引き出すことに成功しているのだ。国も大学のキャリア形成支援機能に注目し、優れた取り組みは文部科学省がGP(「Good Practice」)に採択して財政サポートなどを行っている。社会人として旅立つ直前の貴重な学びの場として、変化を迫られ、期待に応える大学の現状をレポートする。

 

 学生を取り巻く就職環境は依然厳しく、社会が新卒人材に求める資質のレベルは高まるばかりだ。将来に向かって着実に生きていくための第一歩を踏み出すには、大学の充実した修学環境やキャリア形成プログラムなどのサポートが不可欠である。大学によるキャリア形成支援の現状と効果について、インテリジェンスで就職支援サービス部門の責任者を務める柳沢恵美子さんに聞いた。

即戦力に求められる
高度な資質と能力

 昨年度に続き、今年度も大学生の就職難が伝えられている。こうした現状について、インテリジェンスの柳沢恵美子さんは、「就職できる学生とできない学生には、顕著な違いがあります」と明かす。同社では、自治体の新卒未就職者等人材育成事業を受託。柳沢さん自身も、人材育成研修の企画や講師指導を担当するなど、同事業に深くかかわっている。そのなかで、就職に成功する学生は、就職意識が高く、早めに情報収集や準備を始めていること、企業理解を深め、企業側の視点を持った就職活動ができていることに気づいたという。「エントリーシートの作成や面接なども、十分な準備期間が取れるので質を高められるわけです」。

インテリジェンス 
公共ソリューション事業部
首都圏統括部 
エグゼクティブマネジャー 
柳沢恵美子さん
キャリアコンサルタント(CDA)、米国CCE, Inc. 認定GCDF‐Japanキャリアカウンセラー。1988年、インテリジェンス前身の学生援護会入社。第1次就職氷河期に当たる94年より、学生向け就職支援サービスの提供を開始。以後、一貫して高校生、大学生やフリーター等、若年層全般を対象とした就職支援サービスの提供に携わる。現在は全国約150校の大学への就職支援・キャリア教育や、国・自治体の就労支援事業、キャリア教育専門人材の養成を行うなど、現場での多数の支援実績を誇る。

 一方、企業が求める人材像は、様変わりした面があるという。従来は、組織になじみやすい素直な人材を欲する傾向が強かったが、「より主体性や目的意識を持ち、組織を変革していける自立型の人材を求める企業が増えました」。素材としての人材より、個性溢れる即戦力が求められているのだ。これには、理由がある。「バブル崩壊後、新卒人材を教育する機能が企業から失われています。教育投資が減らされ、手厚く新人を教育するゆとりがなくなったこと。そして、新卒学生の先輩に当たる世代が就職氷河期で、OJTなどを担当する余力がないことが、原因です」と、柳沢さんは分析する。

 このため、あらかじめ学生に求められる資質・能力のレベルは高くなっている。

「経済のグローバル化を背景に、語学が堪能なだけでなく、多様な価値観や文化を受け入れながら成果を出せる人材が求められています。もちろん、精神的なタフさも要求されます」と柳沢さん。

 なかでも柳沢さんが注目するのは、コミュニケーションの能力だ。「自分の価値観や考えをベースに、わかりやすく発信でき、組織内外で良好な人間関係や信頼関係を構築できる、他者への想像力も大切です」。

 ところが、少子化によって競争環境が変化したうえに、ゆとり教育の下で育った学生たちは、一般に、まじめで素直だが、論理的な思考力や表現力、コミュニケーションの能力、基礎学力などのベーシックな素養に不安な点が多いと見られている。そこで、社会から求められる人材像と学生の現状とのかい離を埋めるべく、大学が熱心に取り組み始めたのだ。