AIの台頭や一層のグローバル化、就活の地殻変動などの影響で到来する「仕事が消滅する時代」。本連載では、藤原和博氏の最新刊『10年後、君に仕事はあるのか?』の内容をもとに、「高校生に語りかける形式」で2020年代の近未来の姿や、未来を生き抜くための「雇われる力」の身につけ方などをお伝えしていく。連載第16回目。

自分に「付加価値」をつけてくれる会社を選ぶ

それぞれ1人ひとりの道を行こう

 君の希少性を高めるためには、就職でも「みんな一緒」の方向に行かず、自分が信じられる「それぞれ1人ひとり」の道を行くほうが、あとから納得できることが多いです。

 ただし、信じる道をまだ決められない人は、いったん会社や役所に入って自分を鍛えましょう。この際、基準となるのは大学選びと一緒です。自分に付加価値をつけてくれる会社や組織がいいですね。

 のちに希少性を発揮するための第一歩として、自分をしっかり鍛えてくれる組織はどこなのか。どこなら、自分を成長させてくれるかを問いかけることになります。

 でも、就職する段階での知識や判断力には限界がありますから、ある程度絞ったら、あとは飛び込むしかない。ある種、「無謀」に飛び込んで、無我夢中に仕事をしてみてください。

 やがて、君の決断がベストチョイスだと思える日が来るでしょう。それは、5年後か10年後のことでいいんです。

 僕の場合は、会社の社風がいいな、自分に合ってるなという理由だけでリクルートを選びました。親父さんが中小企業の社長をやっていた友人を含め、50人の法学部・経済学部のクラスメートは僕のほかは誰1人、中小企業やベンチャーには入社しませんでした。

 内定してから見せてもらった決算報告書では前年が初の減収減益でしたし、その前にも潰れそうになったことがあったようです。

 僕が入社してからも、銀座に本社ビルを建てたばかりのときに危ない時期があり、社長が最上階から1階まで、帰り際に自分で各フロアの電気を消していく光景を目撃したことがあります。その後も「リクルート事件」があり、マスコミの総バッシングを浴びて、社内が騒然としました。さらに、93年にはダイエーショック。

 オーナーが株をダイエーに売ったためにリクルートがしばしダイエーグループの傘下に入ったのですが、この原因は不動産事業と不動産金融業での失敗でした。その2つの事業が作った1兆5000億円の負債をリクルート本体が背負って、巨大な債務を返済しながらさらに成長する道を探ることに。

 では、いまどうなっているかと言えば、売上や利益は入社当時の100倍になっています。株価を基にした会社の資産評価でも注目株で、海外投資家からも評価の高い会社に成長しています。

 結果的に、逆張りしたことで、自分自身の成長を含め、大きなメリットがありました。

 いまの流れからすれば、「みんな一緒」のビジネスシステムでやっている会社からは利益が失われ、「それぞれ1人ひとり」の顧客をつかむようなビジネスシステムの会社に利益が総取りされる傾向が加速しています。

 成長社会の頃に確立した大量生産システムが中国やインドに追い上げられ、その時代のビジネスシステムから脱し切れていないメーカーは苦しいでしょう。生産するものがほぼ標準化されてしまい、誰が作っても同じようにコモディティ化していくから、付加価値がつかない。そうすると値段で競争するしかない。人件費の高い日本では難しくなります。

 デパートや出版社も「みんな一緒」のシステムのままでは苦しい。

 一方、「それぞれ1人ひとり」を握って離さないビジネスシステムを持つ会社というのは、ケータイ会社だったり、コンビニだったり、楽天のような通販会社だったり、アマゾンだったり……ベンチャーにはこういう会社がいっぱいあります。

 その究極の姿がグーグルですよね。1998年生まれのこの会社は、世界の民主主義や平和の構造にも大きな影響を与える会社に成長しています。

 僕は、就職においては、合理的な選択なんて幻想に過ぎないと思います。

 「行き当たりばったりで上等だ!」というくらいの覚悟で臨んだほうが、あとで君の希少性を高めるのに貢献するのではないでしょうか。そう、繰り返しますが、「覚悟」のほうがよっぽど大事なんです。

 これをやるには、自分が後ろを振り返ったときに誰もついてこなくても寂しがらずにすむ、ある種の感性の鈍さが必要かもしれません。

 寂しさに耐える力と言うべきでしょうか、それとも、ただの無謀さの発揮でもいいのかもしれません。