『週刊ダイヤモンド』8月12・19日合併特大号の第一特集は「制度改悪に備える 家族の介護」です。いま、介護保険制度の変更が制度理念を根本的に変える形で、ひっそりと進んでいます。その多くは利用者サイドから見れば、総じて“改悪”と言わざるを得ません。介護を考える高齢者はもちろん、更なる制度劣化は避けられない10年先、20年先の介護を受ける現役世代も必見です。

 老いは誰しも避けては通れない。介護保険制度は、体が衰えていくシルバーエージが“自分らしく”生きるために整えられた“共助”の制度だ。

 ところが、いま、国がどんな美辞麗句でお化粧を施しても、利用者からすれば、総じて“改悪”としか言いようのない制度改革がひっそりと進んでいる。今年5月、改正介護保険法が参議院本会議で成立したが、「森友学園」騒動で空転し、衆参両院の法案審議時間は過去最低だった。

「とうとう、“ここ”まで踏み込んだか」、「介護保険制度が崖っぷちに追い詰められたことが透けて見える」

 この改正の内容に、識者たちはそう警鐘を鳴らす。実際、今月8月から来年度にかけて介護費の負担増メニューが目白押しだ。

 まず、介護保険制度を利用している住民税課税世帯(一般区分)は、最大で月額7200円の負担増となる。介護費の自己負担額に上限を設ける制度「高額介護サービス費」において、自己負担の上限額が最高額となる月額4万4400円の対象者は、これまで「現役世代並み」の所得者に限られていた。ところが、それが今月から一般区分にも拡大し、月額3万7200円から一気に引き上げられたからだ(一部の世帯は3年間、年上限を44万6400円に止める救済措置あり)。

 片や、40~64歳の現役世代の保険料負担も仕組み大きく変わった。収入に応じた負担を求める「総報酬割」を導入し、中小企業社員はわずかながら保険料が下げられる一方、大企業の社員や公務員は負担が大きく増える。

 1138万人が加入するとされる健保組合員で平均年収456万円の場合、月額727円増(労使合計)。また、健保組合の上位10組合の平均年収841万円の場合ならば、月額5668円増の1万0793円と、ほぼ“倍増”する。

 そして、ちょうど1年後の来年8月には、一定の所得がある利用者の介護費用の自己負担割合が、2割から3割に引き上げられる。

 2000年の制度開始以来、自己負担割合は長らく1割に止められていた。それが、15年度の制度改正で一部の人に限り2割になり、それからわずか3年で3割へと大きく加速して引き上げられたのだ。

 もちろん、その影響は前述の高額介護サービス費があるため、軽微に止まるとされている。だが、安心するのは早計だ。

「介護保険法にひとたび3割負担が明記されれば、その後は国会審議を経ずに対象者を拡大できる」と、小濱介護経営事務所の小濱道博代表は指摘する。

 また、高額介護サービス費は、公的医療保険の高額療養費に連動する形で引き上げられており、そちらも今月、自己負担の上限額が4万4400円から5万7600円に上げられた。つまり近い将来、高額介護サービス費も高額療養費と同じ上限額まで、さらに上げられる可能性が高いというのが、関係者の一致した見方だ。

増える介護費を抑制するため
国がぶら下げた“ニンジン”

 ところが、だ。新聞などではこれら負担増ばかりが強調されるが、「真に恐ろしいのは、要介護度を改善させた自治体を財政支援する『財政インセンティブ』の導入」と識者は口をそろえる。

 簡単に言えば、増え続ける介護給付費を抑えるべく、国が自治体にニンジンをぶら下げた。要介護認定率を改善、ないし長期間維持させた自治体にご褒美を出すのである。

 結果、今後は自治体のサービス格差がさらに拡大するだけでなく、要介護認定の厳格化や、個々の利用者の介護計画にまで行政が介入してくる懸念が目下、介護現場を中心に出ている。

保険料の差し押さえ
年間1万3000人超

「制度が破綻に向かうか否か、今はその瀬戸際にある」――。現在の介護保険制度について、ある識者はそう指摘する。

 実際、その前兆は出ている。

 今年6月の厚生労働省調査により、介護保険料を滞納し、市区町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者(第1号被保険者)の数が15年度、全国で1万3000人を突破し、前年度から約1.3倍となったことが判明した。これはもちろん、高齢者人口を上回る伸びだ。そして、実際に回収できたのは6割に止まった。

 高齢者の介護保険料は公的年金からの天引きが原則。しかし、年間受給額が18万円未満の場合は、自治体に直接納付となり、差し押さえ対象者はこの低年金者に集中していると見られている。

 給付費(自己負担額を除く)の22%を負担する65歳以上の高齢者が支払う保険料は上がり続け、全国平均で月額5000円を超えた。

「実は、関係者の間では当初から、この『月額5000円』が負担の“限界”と見なされてきた」。介護制度に詳しい三原岳・東京財団研究員兼政策プロデューサーは、そう明かす。

 ところが国の試算では、保険料はわずか7年後に、現在の1.5倍に当たる8200円まで上がると予想され、比例して滞納者の数も増え続けることは避けられない情勢だ。

 負担が増え続け、仕組みも複雑化するばかりの介護保険制度。だが、その内実を知れば、あなたと家族の老後を守れる。そこで、本誌ではまずは介護保険制度とサービス、お金のイロハを“早分かり”することから始め、後悔しない介護へのノウハウをお伝えする。「もしも」の時が今訪れても慌てずに済むはずだ。

介護への備えはますます“自己責任”に
複雑怪奇な介護保険制度をわかりやすく解説!

『週刊ダイヤモンド』8月12・19日合併特大号の第一特集は「制度改悪に備える 家族の介護」です。

 複雑怪奇な介護保険制度を、ビジュアルで直感理解できる虎の巻を始め、介護にかかる本当のおカネを算出した独自の会計シミュレーション、人気の民間介護保険商品比較などの対策も伝授。また、2018年度制度改正の裏に隠れた国の真の狙いも解き明かします。

 このほか、人気の「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の全国ベスト1500施設ランキングのほか、あなたが住む自治体別の介護の実力リストも掲載しました。

 自己負担は増え続け、仕組みは複雑化するばかりです。介護への備えが、ますます“自己責任”の時代に突入するなか、いざ自分や身の回りの人が介護状態になったときに、何ができるのでしょうか。そのノウハウをお伝えします。