東日本大震災によって落ち込んだ生産の回復が大きく遅れたホンダ。ひとり負けの背景には在庫問題があった。決算から透けて見えるのは自動車メーカーの強みがリスクにもなりうるということだ。

 3月11日の東日本大震災は、多くの自動車メーカー、部品メーカーの工場にその爪あとを残した。自動車各社の生産は、例外なく滞った。しかし、回復の度合いには大きなばらつきがある。 

 乗用車5社の3月以降の回復度を示した図①を見ていただきたい。際立っているのはホンダの生産回復の遅れだ。

 4月の生産は前年同月比20%を切る水準にまで低下、5月以降の各社の急回復軌道にも乗り遅れた。6月に入っても50%を割り込み、回復の著しい日産自動車、三菱自動車はもちろん、同じく落ち込みの大きかったトヨタ自動車からも大差をつけられた。

 半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスに依存していたエンジン制御用のマイコンが不足し、生産回復の足かせになっていた事情は他社も同じだ。そのなかでホンダの回復スピードだけが鈍く、生産がほぼ正常化したのは他社に遅れること1ヵ月以上、6月末のことである。

 大幅な遅れの理由はどこにあったのか。ホンダの池史彦取締役専務執行役員は部品、原材料などの「手持ち在庫の水準が低かったことが、出遅れにつながった」と説明する。

 ある中堅メーカーの首脳も「手元に部品在庫を多く抱えていたところほど、生産の回復も早かった」と明かす。

 いち早く回復した日産の田川丈二執行役員も「今年、攻勢をかけることが決まっていたので、震災前からある程度、増産のために在庫を抱えていた面も影響している」と打ち明ける。

 実際に、ここ3年間のホンダ、トヨタ、日産の部品、原材料在庫の推移を見てみよう(図②)。

 各年3月末時点の国内生産にかかわる単体の仕掛かり品、原材料および貯蔵品の合計額は、日産が他の2社に比べ常にやや多い水準にあるものの、2009年から10年にかけて、3社とも在庫を減らしている。

 ところが、10年から11年となると、ホンダだけ他の2社と異なる動きを見せる。

 トヨタと日産が在庫の合計額で前年比130%以上を示したのに対して、ホンダは119%と10%以上の開きがある。売上高比で見ても、ホンダのみ2%を下回る水準だ。震災発生前のホンダは、在庫をかなり抑えていたのだ。

 部品、原材料の在庫水準を見るには、「メーカー本体だけではなくて、部品メーカーの在庫も増加していた」と田川執行役員が言うように、関係の強い部品メーカーの在庫水準も勘案する必要がある。