先日、野田佳彦氏が民主党の代表そして日本の首相に選ばれる様子を見て、筆者が昔書いた、官僚問題に関する懸賞論文を思い出した。国民をプリンシパル(委託者)、官僚をエージェント(代理人)ととらえ、いわゆる「官僚問題」をエージェンシー関係(委任関係)がもたらす非効率性(これをコストとしてとらえたものがエージェンシーコスト)の問題だ──という枠組みで書いた。

 エージェンシー問題は、プリンシパルとエージェントのあいだで、利害に相違があることと、情報に非対称性があることの二つを条件として発生する。通常、エージェントはなんらかの専門家で、詳しい情報を持っているが、プリンシパルは持っていない。

 官僚問題の場合、たとえば、非効率的でコストのかかる行政が行われると、国民は負担が大きくなるが、官僚にとってはそのムダの部分こそが自らの食いぶちとなるという利害の対立が存在する。

 ごまかしがきく範囲の中で、官僚が国民にとっては最適でない行政を行い非効率が発生する可能性は大いにある。また、プリンシパルである国民に信用されるために、なんらかの監査を受けるようなモニタリングのコストが余計に発生することもある。

 現実には、官僚は純粋に国民のためにのみ働くわけでもないし、企業経営者も純粋に株主の利益最大化のために働くわけではない。

 解決の方向性は、2方向に分かれる。一つは、情報の非対称性を縮小するために情報公開を拡充することだ。もう一つは、プリンシパルとエージェントの利害の一致を図ることだ。

 後者の例として、企業の場合、経営者の報酬を収益に連動させたり、ストックオプションを付与したりして、経営者の利害と株主利害を近づける工夫がある。ただし、ストックオプションのような制度は、制度自体を経営者に利用されかねない面を持っていて、完全な問題解決は容易ではない。