スウォッチは、スイスフラン高で悲鳴を上げている代表的な企業の一つである。廉価な時計を販売している同社は、高級ブランドの時計メーカーと異なって、為替レートの影響をもろに受けやすい。同社はスイス国立銀行(中央銀行)に対して対策を取るよう要求してきた。

 同行は9月6日にユーロの対スイスフランの下限レート(1.20フラン)を設定。徹底介入により通貨高を阻止するという。これまで当座預金残高を大幅に増加させる金融緩和策を数回実施したが、まったく効果がなかった。

 日本政府がスイスの今回の決定をまねできるかというと難しい面がある。スイスのGDPは日本の10分の1程度にすぎない。G7のメンバーでもない。小国ゆえにスイスの介入は許されている。

 市場介入がもたらしうる納税者負担の問題も議論を整理しておく必要がある。スイス国立銀行は2009年3月から昨年6月にかけて、輸出産業を守るため介入を行った。それは昨年度から今年度前半に298億フランという巨額損失を招いた。スイス国民党は激しく怒り、中央銀行総裁に辞任を求める騒ぎに発展した。今回の「下限レート設定」に至る過程で、同行は、今後の介入で損失が発生しても責任が問われないような政治的コンセンサスの醸成を待っていたのだと考えられる。