人の命を救うことに
一点の曇りもあってはいけない

「死んでも仕方がなかった」で済ませていいのか?<br />“釜石の奇跡”の立役者があぶり出す安全神話の虚構釜石市の防災・危機管理アドバイザーを務めてきた片田敏孝・群馬大学大学院教授。今回の津波から多くの小中学生が生き延びた「釜石の奇跡」の立役者である(筆者撮影)。

「三陸沿岸に住む大多数の人は、あの地震の直後に『津波が来る』と思ったはず。だが、即座に避難することができなかった人がいる」

 防災を研究する群馬大学大学院の片田敏孝教授は、こう指摘した。私が震災により2万人近くが死者・行方不明になっている理由について、尋ねたときだった。

 片田氏は、今回の津波から多くの小中学生の命を救った「釜石の奇跡」の立役者として知られる。8年前から釜石市の防災・危機管理アドバイザーとして、市内の小中学校で児童・生徒らに、主体的に自らの命を守ることの大切さを教えてきた。

 今回は、片田氏へのインタビューを基に、防災に関する安全意識の盲点や、我々が信じて疑わなかった安全神話の「虚構」について検証しよう。


 片田氏は、東日本大震災直後に釜石市に入り、多くの死者と向かい合った。「2万人近くに及ぶ死者・行方不明者は、少なくとも3つのカテゴリーに分けられる」と分析している。

 1つは、足腰を弱くしたり体の具合が悪く、1人では迅速に避難ができない「要援護者」。その多くは、高齢者だった。

 2つ目は、「職責を全うした人たち」。たとえば、警察官や消防団員、民生委員、自治体の職員、さらには自宅で治療を続ける親を介護する家族など。

 3つ目は、「避難意識が徹底されていなかった人や、その犠牲になった人」。たとえば、宮城県石巻市の大川小学校の教職員や、児童たちである。

 特に1つ目と2つ目は、今回の震災で大きな問題となり、議論を深める必要があると語る。