デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)の波がうねりを強めている。世の中のありとあらゆる情報がIoT(モノのインターネット)で集積され、ビッグデータ解析やAI(人工知能)の活用によって、新たなニーズを発見し、それに応える革新的なビジネスモデルが次々と創出されている時代に、日本企業はどう対応していくべきなのか? 「デザインによる未来創造」を研究する東京工科大学の澤谷由里子教授に聞いた。

「変わり続けていく会社」をつくるには?

技術革新だけでは<br />デジタルトランスフォーメーションに対応できない澤谷 由里子(さわたにゆりこ)
東京工科大学コンピュータサイエンス学部 大学院アントレプレナー専攻 教授
早稲田大学 WASEDA-EDGE 未来創造デザインプログラム担当


東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系博士後期課程修了。学術博士。日本アイ・ビー・エムで情報技術の研究開発および戦略に従事。2005年からサービスサイエンス研究の立ち上げを実施。2013年、早稲田大学教授。2015年より現職。サービス学会理事、研究・イノベーション学会理事などを兼任。近著に『Global Perspectives on Service Science: Japan』がある

「デジタルトランスフォーメーション」(デジタル変革)という言葉が、近年、日本でも注目されるようになってきた。そもそもは、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という概念だが、米ウーバーによるライドシェア(相乗り)サービスや、エアビーアンドビーの民泊予約など、概念を具現化するサービスが次々と誕生し、成功を収めたことが関心の呼び水になっているのは間違いない。

 デジタルトランスフォーメーションは、従来のモノやサービスの売り方を根底から覆し、シェアリングエコノミーやマスカスタマイゼーションなど、新しい消費者へのアプローチを企業に迫っている。だが、残念ながら日本の企業は、そうした変化に十分対応し切れていないのが実情ではないだろうか。

「多くの日本企業の場合、危機意識の欠如が変革を妨げる要因のひとつになっているのではないかと思われます。まずは『デジタルトランスフォーメーションの波に乗り遅れたら、10年後、20年後に自分たちの会社は存続していないかもしれない』という前提で、やるべきことを考えてみてはどうでしょうか」と澤谷教授はアドバイスする。

 デジタルトランスフォーメーションへの関心の高まりとともに、澤谷教授には、関連する講演や研修、ワークショップなどの依頼が多くの企業から寄せられているという。

「ある企業のワークショップで、あえて『2030年に自分たちの会社が潰れてしまった』という設定の模擬記者会見を開き、何が原因だったのか、どうすれば破たんを免れたのかをグループごとに考えて発表してもらったことがあります。各グループには、60代のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)、50代の部長クラス、40代の課長クラス、20代の若手社員といったペルソナを設定し、それぞれの立場になって発表してもらいました」