英語メディアが伝える「JAPAN」を紹介するこのコラム、今週は野田佳彦首相の訪米があまり話題にならなかったことと、日本人のがんばりや正直が一部でほめられていることについてです。(gooニュース 加藤祐子)

そもそもそれほど注目は

 野田佳彦首相の、首相としての初訪米と国連演説とオバマ米大統領との会談は、まったく予想通りですが、英語メディアではほとんどと言っていいほどニュースになりませんでした。そもそも国連総会は毎年のことなので、パレスチナとかリビアとかその時々のホットなトピックスでなければ、さほどニュースになりません。国連本部のあるニューヨークでは、「今年もまた渋滞の季節がやってきました」などと地元ニュース番組が朝の挨拶にすることはあっても。加えてそもそも、米大統領が日本の総理大臣と会談しても(それが誰であれ)、アメリカではそう大きなニュースにはなりません(それに引き換え今年1月に中国の胡錦濤国家主席がアメリカを公式訪問した際の扱いの大きさといったら! 米政府による扱いも、マスコミによる扱いも)。

 とはいえ、まったくニュースになっていないわけではなく(本当なら震災と原発事故の日本も、今年の注目トピックのはずなので)、通信社の記事さえなかったらどうしようと思っていたら、さすがに通信社の記事はありました。米紙『ワシントン・ポスト』などに掲載されたAP通信記事は、「オバマ、日本の新首相と会談 米海兵隊基地の移設に進展求める」という見出し。オバマ大統領は「主要な同盟国・日本」に対して震災と津波復興の支援継続を約束すると同時に、もう長いこと延期されている在日米軍移設計画の進展を「pushed for(強く求めた)」という書き出しです。

「双方とも米日同盟(U.S.-Japanese alliance)を称え、野田氏はこれを日本外交の柱と呼んだ。両首脳は両国が経済成長に焦点を合わせなくてはならないと述べた。しかし両国の関係で障害(sticking point)となっている点についても、両首脳は言及」として、記事は普天間移設問題を説明。「日本政府は地元住民の同意を得られていない」し、「影響力のある米議会議員たちが(現行の)移設計画について、実現は難しく高すぎると批判している」とも説明しています(ちなみに、普天間飛行場の辺野古移設や在沖縄米海兵隊のグアム移転について反対し、普天間飛行場と嘉手納基地の統合案を提唱しているのは、上院軍事委員会のカール・レビン委員長(民主党)とジョン・マケイン筆頭委員(共和党)たちです)。

 AFP通信は、「オバマと野田、経済成長促進を約束」と、経済メインの見出しです(たびたび書いていますが、英語記事で敬称略の呼び捨ては、ままあることです)。

 書き出しは「バラク・オバマ米大統領は日本の野田佳彦首相と初会談を行い、両首脳は脆弱な状態になっている世界経済の成長促進を約束した」というもの。首脳会談の際に会見で「一番心配しているのは、世界経済が後退する懸念だ。日米両国は経済成長と財政健全化を両立させ、多国間の枠組みを通じて連携、協力することが大切だ」と首相が述べたことについては、「野田氏は通訳を通じて『経済後退の懸念に言及した。日本経済を意味したのか世界経済のことかは、はっきりしなかった』と。

 どうやら、日本語⇄英語の通訳や翻訳にありがちな「lost in translation」が、会見で発生していた様子。まあ、この程度なら可愛いものですが。「lost in translation」とは翻訳もれや翻訳ミスで意味が失われることを意味する常套句で、日本を舞台にしたハリウッド映画のタイトルでもあります。

 なおAFP通信は、野田首相が国連演説を終えた23日に開いた内外記者会見も短い記事にして、首相が「今回日本が得た、反省点、教訓、知見というものを迅速且つ正確に国際社会にお伝えする」と述べた部分を取り上げています。

日本から世界が学べること

 3月11日以降の経験から日本が国際社会に伝えられること。それはまさしく大災害におけるあるべき予防と対応、そして原発事故に関するあらゆる知見でしょう。それに加えて25日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』社説は、この夏の日本の節電にも学ぶべきだと書いています。

 原発事故を起こした日本は世界の鼻つまみ者、みたいな極端な(日本人による)言説が一時ありましたが、はたして本当にそうでしょうか? 

「日本にて、節電の夏」という見出しの『ニューヨーク・タイムズ』社説は、「長く暑く暗い夏を経て、日本では日中は前より涼しく、夜は前より明るい。これは9月になったからというだけでなく、『setsuden』のおかげだ」という書き出しです。

 同紙は「setsuden」を「大成功に終わった野心的なキャンペーン」と説明。国内54基の原子炉のうち15基以外は停止という今の状況は、「原子力に大きく依存し、かつ再生可能エネルギーにほとんど投資してこなかった国にとって大打撃だった。夏が近づくに連れ、国家的なエネルギー危機を避けるには大々的に節約するしかなかった。よって日本人は使うエネルギーを減らしていったのだ」と。

 社説はこうして、私たちが過ごしてきた夏のあれこれを手短に説明します。出勤時間を早めたり週末に出勤したりして、冷房をあまり使わず、電灯もあまりつけず、パソコン画面の灯りを頼りに働いた日々を(実に現代版の、蛍の光窓の雪です)。

 おかげで「Setsuden worked(節電はうまくいった)」と同紙は書き、おかげで今月になって政府は予定より何週間も早く電力制限を解除し、「東京にまた電気がついた。ピーク時の電力使用量を昨年の水準よりずっと少なく抑えたおかげで、停電や計画停電を回避できたのだ」と説明。「しかし大変な事態が終わったわけでは決してない。原発をまた稼働させるかどうか議論する一方で、日本は古い石油やガスの火力発電所を動かしている。これは温室効果を減らす戦いの足を引っ張ることとなる。節電精神がこの冬には廃れてしまうと懸念する人もいる」とも。

 その上で同紙社説は、「日本が今年経験してきたような苦しみを自分も経験したいなどと思う人はいない。それでも日本は、エネルギー危機を克服するために直ちに何ができるのかを示してくれた。これはアメリカにとって良い教訓となる。アメリカは脆弱な電力網と巨大な電力需要を抱え、そしてとんでもないほど化石燃料に中毒しているのだから。消費とは、増えるばかりが能ではないのだ」と結んでいます。

 アメリカ生活の経験がある人なら、この「とんでもないほど化石燃料に中毒」というくだりに「そうそう!」と膝を打つのではないでしょうか。どんな近場でも車に乗り、夏場は屋内も車内も冷房でキンキンに冷やし、冬には部屋をガンガンに暑くして半袖でアイスクリームを食べる、あの生活。あの過剰なライフスタイルに日本は近づいているのではないか。震災前までそういう懸念を抱いていた私は、節電によるヒートアイランドの軽減は本当に結構なことだと思います(「窓が開かないビル」という技術過信の傲慢で馬鹿げたものが林立している都内の状況には、「責任者でてこーい!」と怒鳴りたいですが)。

 いずれにしても、「長引く景気後退=日本化(Japanification, turning Japanese)」とか原発事故とか、そういう反面教師的な「日本の教訓」について書くのはもう辟易としているところに、『ニューヨーク・タイムズ』がこうして「日本の節電から学ぼう」と書いたのは、なかなかに嬉しいことです。

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