財政危機のスペインに<br />投資銀行が群がる「理由」 スペインでは、国内で存在感の高い「カハ」と呼ばれる貯蓄銀行が地方に乱立、スペイン中銀(写真)が業界再編を推し進めている
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 欧州危機が深刻化するなか、財政赤字の大きさが不安視されているスペインに、投資銀行が触手を伸ばしている。狙いは不良債権にあえぐ銀行業界だという。

 今年7月、ギリシャの政府債務危機を受けて、欧州銀行監督機構がEU域内の90行に対し健全性テストを実施。なかでも資本不足が目立っていたのがスペインの銀行で、不合格8行のうち5行が同国の銀行という結果だった。

 その背景には、過去約10年にわたり地中海のリゾート開発など商業用不動産への融資に傾注、これがリーマンショック前後からブームの終焉で焦げついてしまったという事情がある。建設・不動産向け融資の不良債権比率は、じつに2割弱にまで上昇した。

 そこでスペイン政府と中央銀行は2009年以降、信用力の低下した銀行に対する資本増強と合併による経営効率化を図り、これまで業界再編を推し進めてきた。とりわけ厳しい地方銀行でいえば、その数は45行から18行へと約3分の1に集約されている。

 企業合併のアドバイザーを務める投資銀行からしてみれば、こうした状況はまさに絶好の収益機会。調査会社のディール・ロジックによれば、投資銀行に収益をもたらすスペインの金融機関のM&A(国内同士の合併またはスペイン側が国外に買収される案件)件数は、08年の65件から10年には137件とほぼ倍増。案件総額も66億ドルから343億ドルと5倍以上に拡大しており、規模の大きな銀行にまで再編が波及していることがうかがえる。

 これを受けて欧米の投資銀行が同国への人員シフトを図っているほか、日本勢では野村ホールディングスが投資銀行部門の人員を、旧リーマン・ブラザーズを承継した直後の10人体制から急拡大、いまや50人にまで増員して案件獲得に奔走。あるスペイン駐在の投資銀行担当者も「仕事がかなり増えている」と明かす。

 さらにここにきて、EU域内の銀行は7月時点よりもさらに厳しい健全性テストの実施によって資本増強を迫られる見込みで、「再編がまだまだ進む」(野村関係者)と見ているわけだ。

 もっとも、投資銀行に落ちる手数料ベースで見れば、総額は08年の7500万ドルから10年は6700万ドルへと1割減(ディール・ロジック調べ)。案件数は倍増だから、1件当たりの手数料は115万ドルから49万ドルへと4割に減少しているのが実情なのだ。

 それもそのはず。競争激化によって「シェア獲得のために採算度外視で引き受けている」(投資銀行関係者)からで、真の目論見は未上場の地銀同士の合併案件を手がけ、「最終的に上場させて儲ける」(欧州投資銀行幹部)ことだ。だが、このところの市況を鑑みれば、“取らぬ狸の皮算用”ともなりかねない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)

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