単なる物知りではこの先、生き残れない。この世界を生き抜くには、限られた時間の中で費用対効果の高い「戦う武器」を手に入れ、上手に使いこなす「武器としての知的生産術」が必要だ。MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。

子曰わく、学んで思わざれば則ち罔らし。思うて学ばざれば則ち殆し
――『論語』

独学を効果的に行う四つのモジュール

 今回は、「知的戦闘力」の向上につながる「独学のメカニズム」について説明したいと思います。

 独学は大きく、「(1)戦略」→「(2)インプット」→「(3)抽象化・構造化」→「(4)ストック」という流れによって形成されます。

(1)戦略
 どのようなテーマについて知的戦闘力を高めようとしているのか、その方向性を考えること

(2)インプット
 戦略の方向性に基づいて、本やその他の情報ソースから情報をインプットすること

(3)抽象化・構造化
 インプットした知識を抽象化したり、他のものと結びつけたりすることで、自分なりのユニークな示唆・洞察・気づきを生み出すこと

(4)ストック
 獲得した知識と、抽象化・構造化によって得られた示唆や洞察をセットとして保存し、必要に応じて引き出せるように整理しておくこと

 多くの人は「独学」というと、このプロセスの中の「インプット」だけに着目して、すぐに「WHAT=何を読むか」や「HOW=どう読むか」という点について、手っ取り早いアドバイスを求めてしまうようです。

 しかし、そのような「独学」は、単に雑学的な知識を増やすだけで、『知的戦闘力を高める 独学の技法』が掲げる「したたかに生き抜くための知的戦闘力を高める」という目的にはほとんど貢献しません。

 冒頭に掲げた「子曰わく、学んで思わざれば則ち罔し。思うて学ばざれば則ち殆し」という言葉は論語からの抜粋です。平たく言えば「先生は仰いました。学んでも考えなければ洞察は得られない。一方で、考えるだけで学ばなければ独善に陥る恐れがある」という意味でしょうか。この指摘は、特に独学者であれば肝に銘じておいてほしいと思います。

 というのも、この論語の指摘は、独学者がはまる2種類の陥穽についてとても鋭く指摘しているからです。論語が書かれたのはいまから2000年ほど前のことですが、こういう鋭い指摘に触れると、私たちの知性というのは本当に進化しているのだろうか、と考えさせられますね。

 独学者がおかしやすい過ちの一つは、単に知識だけを詰め込むだけで思考しないということです。

 たとえば世界史を独学するというとき、やってしまいがちなのが「ひたすら年表や年号を暗記していく」ということです。歴史検定を取得して自己満足に浸りたいということであれば、これはこれで否定しませんが、社会生活における知的生産能力の向上を目指すのであれば、ひたすら年号や固有名詞を覚える意味はあまりありません。

 大事なのは、年号や固有名詞などの羅列の背後から「人間」をありありと立ち上げること、そのような事件や事象がなぜ起きたのかを考え、人間や組織や社会の本性についての洞察を得る、ということです。

 歴史を学ぶことで、どうして知的戦闘力が高まるのか? それは歴史がケーススタディの宝庫だからです。私たちが日々向き合う現実の問題は唯一無二のものに見えますが、歴史を長く遡れば同様の事態に直面した事例は数限りなくあります。

 過去の類似事例において、その問題に向き合った人たちがどのように対処し、その問題をうまく乗り切ったのか、あるいは破滅してしまったのかを知ることが、私たちの知的戦闘力を向上させないわけがありません。

 19世紀後半、ドイツ統一に主導的な役割を果たした「鉄血宰相」、オットー・フォン・ビスマルクが言うように、「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」のです。