長期的な目標を決め、その達成のために頑張るのは危険。目標から逆算する独学もまた無意味である。なぜなら、キャリアの8割は予想外の出来事で形成されるから。キャリアも「知の創造」も予定調和しないのだ。では、後で本当に役立つ学びとは何か?MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。

インプットは「短期目線」でいい

「独学の技術」を学ぼうなどと考えるマジメな人であれば、将来のキャリア上の目標から逆算して読むべき本を選ぶ、というアプローチを考えるかもしれません。

 しかし私は、こういった長期目線の読書というのは、ことリベラルアーツに関連する読書には必要ないだろうと思っています。

 というのも、結局のところキャリアは予測できないし、するべきでもないからです。成功したビジネスパーソンは、どのようにしてキャリアを計画し、それを実行していったのか。

 ビジネスの世界で成功したいと願う人であれば誰もが考えるであろうこの問いについて、実際に調査したのがスタンフォード大学の教育学・心理学教授のジョン・クランボルツでした。

 そして、クランボルツは調査の結果をまとめ、キャリアの8割は本人も予想しなかった偶発的な出来事によって形成されているということを明らかにしました。逆に言えば、長期的な計画を持って、その目的達成のために一直線の努力をするというのはあまり意味がないということです。

 クランボルツは、キャリアの目標を明確化し、自分の興味の対象を限定してしまうと、偶然に「ヒト・モノ・コト」と出会う機会を狭めることになり、結果としてキャリアの転機をもたらす8割の偶然を遠ざけてしまうと警鐘をならしています。

 クランボルツの調査からは、成功する人は「さまざまな出会いや偶然を、前向きに楽しめる」という共通項があることがわかっています。これを読書術に当てはめて考えてみれば、将来の目標を設定して、その目標から逆引きして読むべき本を決めてそれに集中するというのは、効果的でないどころか、むしろ危険ですらあると言えるでしょう。

「長期的な目標を決め、その達成のために一意専心に頑張るのは危険」という、このクランボルツの指摘は、今後ますます重要性を増すように思います。というのも、世界の変化がこれまで以上に速くなっているからです。

 米デューク大学のキャシー・デビッドソンは「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時にいまは存在していない職業に就くだろう」と主張しています。

 情報化が進むに従って、我々の働き方は大きく変わってきました。たとえば、10年前には「ソーシャルメディア」などという業界は存在しませんでした。企業がイノベーションを実現するたびに業態が変化し、新しい職業が生まれ、既存の専門職を置き換えつつあるのです。

 まとめれば、「将来きっと役に立つだろう」という理由で読むべき本を選別する必要はないということです。常に「いま、ここ」ですぐに役立つとか、あるいは面白いとかといった刹那的な選好がずっと重要であって、あまり中長期的な目線で読書をしなくてもいいと私は考えています。