「割れ窓理論」なるものをご存知だろうか。割れたままの窓ガラスを放置していると、人々のモラルが荒廃し、治安の悪化を招くという考えである。

 犯罪多発都市と言われたニューヨークは、この理論に基づく治安対策を行ない、大きな成果を挙げた。

 足立区は、路上喫煙やごみのポイ捨て禁止、放置自転車の取り締まり、清掃活動の推進、花いっぱい運動の展開など、犯罪を生まない環境づくりに区を挙げて取り組んでいる。名づけて「ビューティフル・ウィンドウズ運動」。4種類のプロモーションCMを作るなど、力の込めようは半端ではない。

「わがまち」は本当に治安が悪い?
イメージの悪さは非侵入窃盗が原因

 2006年以降、4年連続で犯罪発生数(刑法犯認知件数)ワースト1の足立区。犯罪発生と相関が強い昼間人口当たりの認知件数も第1位である。もっとも、同じように犯罪発生との相関関係が認められる面積当たりでは、順位が15位に下がる。果たして足立区は犯罪が多いのか。そこには議論の余地もありそうだ。

 とはいえ、犯罪リスクの高さが区民の共通認識となっていることに、間違いはない。2009年に区が実施した世論調査によると、足立区のイメージは、「治安が悪い街」が「公園が多い街」と並んで同率の首位。30代以下の若い世代では、圧倒的な1位を占めた。

 犯罪発生の実態をもう少し詳しく見てみよう。昼間人口当たりの粗暴犯発生数は8位、風俗犯9位、知能犯15位。夜間人口当たりの侵入窃盗発生数9位。決して少ないとはいえないが、実は特に多いというわけでもない。

 足立区で多いのは、非侵入窃盗。発生数は2位以下を頭1つ超えている。昼間人口当たりで見ても23区最多だ。非侵入窃盗とは、万引き、車上狙い、ひったくり、自転車・バイク盗などを指す。街頭犯罪の多さが「治安が悪い」という不安を生む根底にある。

足立区――区民でさえ信じ込んでいる「飛び抜けた治安の悪さ」は本当なのか?