サブプライムショックに端を発するドル安が続けば、ドルの一極基軸通貨体制は今後どうなるのか? ドルの相対的な地位低下が囁かれるなか、元財務官の行天豊雄氏は「ドル基軸通貨体制の継続」を力説する。(聞き手:『週刊ダイヤモンド』 竹田孝洋)

行天豊雄
ぎょうてん・とよお/1955年東京大学経済学部卒業後、旧大蔵省(現財務省)入省。84年国際金融局長。86年から89年まで財務官。92年6月旧東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)会長。95年12月より国際通貨研究所理事長。(撮影:宇佐見利明)

――今後もドルの基軸通貨体制は続くのか?

 30年先を見越してもドル中心の体制は変わらないだろう。今後もユーロ圏経済はある程度の成長を続け、現時点でドルに次ぐ存在となったユーロは国際通貨としての地位を向上させるが、ドルを凌ぐことはない。国際間の決済、外貨準備に占める比率が50%を超えることはないだろう。これからもユーロに参加する国は増えていくものの、経済力が劣る国が中心だ。そのことはユーロを必ずしも強くすることにはならない。

――ドルをしのぐ通貨は出てこないのか?

 ポンドが基軸通貨だった19世紀も後半になると、経済力、軍事力の面で米国が英国を凌駕し始め、第1次世界大戦後には逆転する。しかし、通貨の地位の後退は経済力の盛衰より遅れる。ドルの基軸通貨体制が確立したのは経済力逆転の約30年後、第2次世界大戦後だ。ニューヨークのウォール街が世界の金融センターとしてロンドンのシティに取って代わるのもやはり第2次大戦後だった。

 基軸通貨となるには、世界トップの経済力だけでなく、世界の金融センターとしての地位が欠かせない。現時点で、経済力において米国をしのぐ存在はないし、ましてや金融センターとしてニューヨークを超える市場は見当たらない。だから、30年先もドルの基軸通貨体制は続くだろう。

――人民元が基軸通貨となる可能性はあるのか?

 基軸通貨となるには、まず中国が今後も10%以上の成長を続け、経済力において米国を凌駕する存在にならなければならない。ポンドからドルへの移行に見るように、経済力が逆転してから基軸通貨の地位が移行するまでに30年前後はかかる。また、人民元が他通貨と自由に交換できない現状では、世界の金融センターとなる市場を持つことは難しい。30年先に人民元が基軸通貨となることはないと見ている。