日本が目指すべきはボトムアップのIoT
現場力を高めるためのデータ活用

西岡靖之
法政大学デザイン工学部システムデザイン学科教授
一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)理事長

1985年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。国内のソフトウェアベンチャー企業でSEを経験し、1996年に東京大学大学院博士課程修了。同年、東京 理科大学理工学部経営工学科助手。1999年、法政大学工学部経営工学専任講師。2007年から現職。ものづくりに関する情報マネジメントシステムの標準モデルを研究している

 ドイツの「インダストリー4.0」が話題となり、私が日本の製造業におけるIoT(モノのインターネット)活用の推進を唱えてから2年半が経過した。最近では、IoT、AI(人工知能)の文字を新聞・雑誌で見かけない日はないくらいに、その勢いは留まるところを知らない。

 ただし、新しい技術にはつきものだが、バズワード的な要素も多分に含まれ、特にAIについては、「機械が人格を持ち、人から離れていく」といったミスリードも散見される。これについてはどこかで修正が入るだろう。

 問題なのはAI技術そのものではなくて、AIを過信する人間のほうだ。「AIが決めたのだから、従うべきだ」といった、責任の所在をあいまいにする構図がAIと個人の意思決定の関係に現れると、非常に危険だ。ビッグデータによって今後AIが巨大化していったときに、ちゃんとヒトが介在し、補正したり、否定したりできるような"人間力"がますます重要になる。そうしたAIがもたらす社会的インパクト、システム論や組織論的な課題は、AI技術の研究者だけでなく、歴史学者や政治学者、法律学者なども交えて、議論を深めていく必要がある。

 これに対し、IoTに関しては、景気に対する浮揚効果が大きいと考えている。IoT活用にあたっては、数多くのデバイスが必要になる。デバイスは単体では意味をなさないからシステムとなり、システムは仕組みになって、最終的にはどんどん新しい投資が生まれることになる。IoT活用のさらなる推進が企業にとっても、国にとっても重要だ。

 一方、デジタル化が進めば、データがじゃぶじゃぶ発生する。データ活用に関する指針なり、仕組みが伴わないと、データの海におぼれて、かえって重要なデータが見えなくなってしまい、必要な意思決定ができなくなる恐れもある。データを分析するデータサイエンティストとは違う、データを活用して日々のアクティビティに落とし込んでいくような、新しいIT人材の育成が急務だ。

 徹底的にデジタル化を進める欧米に対し、日本はそれに対する抵抗感があるので、このままでは中途半端なデータ活用になりかねない。我々日本が目指すべきはボトムアップなIoTを盛り込んだ、現場力を高めるためのデータ活用である。そうした方向性を明確に認識しておかないと、関連製品・サービスを提供するFA(Factory Automation)メーカーやITベンダーはいいが、活用する側がついていけなくなり、マーケット全体としてはシュリンクしてしまうだろう。