人型ロボットがバイクを運転、世界最高のライダーに挑んだ顛末NV事業統括部企画部長の加藤薫(左)と開発メンバーの内山俊文・NPM事業統括部PM先行開発部企画研究グループ主事(中央)、森田浩之・NV事業統括部NV企画部主事(右) Photo by Toshiaki Usami

「人型ロボットがバイクを運転し、世界最高のライダーを打ち負かす」

 こんな前代未聞の挑戦に本気で取り組んだ技術者たちがいる。

 二輪車メーカーのヤマハ発動機は2009年12月期、リーマンショックによる世界的な不況で2000億円以上の最終赤字に転落。創業以来の危機に陥った。

 社長(当時。現会長)の柳弘之は、工場の集約や人員削減などを断行し、4年後には最終利益400億円超まで回復させた。守りから攻めへ経営をシフトする中、14年1月、将来の事業の種をまくための組織として、社長直下に「NV(ニューベンチャー)事業推進部(現NV事業統括部)」が設立された。

 担当役員となった常務の滝沢正博には一つの思いがあった。「当社には新しいことに挑戦する文化がある。自分たちの取り組みを通じて、ヤマハスピリッツや技術力を社内外に発信したい」。それ故に開発テーマは「チャレンジングで過去に誰も挑戦したことがなく、なおかつ遊び心に溢れているものにしよう」と考えた。

 開発メンバーは森田浩之、内山俊文など、当時20~30代の若手社員たちだった。最初のプロジェクトとして何を行うべきかさまざまな議論がなされた結果、自社が持つ産業用ロボットと二輪車の技術を生かし、自らの判断で自律走行する人型ロボット「MOTOBOT」の開発に決まった。