「この基準を満たそうと思ったら、マンション価格は3割も上昇するかも知れない」――。

 1月23日、東京都はマンションデベロッパーを震え上がらせる新たな認定基準を打ち出した。

 この基準は、震災発生時にも住み続けることができるマンションを認定するもの。建築基準法で定める耐震性を有することはもちろん、常用発電機を設置し、停電の際にも水の供給や最低1基のエレベーター運転を行えること、また常用発電機で発生する熱を暖房などに使用できる設備が整っていることなど、合計5つの条件が盛り込まれている。

 条件を満たしたマンションは、「東京都LCP(Life continuity performance)住宅」として登録される。

 東日本大震災の際、都内では、建物は壊れなかったものの、大規模停電や、その後の計画停電などの影響でエレベーターの運転が停止したり、水道が使えなくなるなどの問題が発生。居住者の生活に大きな影響を及ぼした。

 そこで、大震災時にも住み続けられるマンションを認定しようということになったのだが、マンション業界は「いろんな意味で厳しすぎる」と及び腰だ。

 最大のネックはコスト。非常用発電機を持つマンション自体がまだ少なく、この基準通りにマンションを作るとなるとコストがかかる。

 マンション購入価格は俗に「年収の5倍まで」が適正と言われる。昨今の超低金利では、もう少し幅が広がっているものと思われるが、それでも購入者の収入自体が上がらない時代にあって、コストアップ分は価格に転嫁しづらい。

 しかし、こうした認定制度ができてしまえば、対応しないわけにも行かない。強制力のあるものではないが、認定外となれば「評判が下がり、売りづらくなるかも知れない」からだ。

 また、既存物件への対応も難しい。こうした認定制度ができてしまえば、「既存物件の居住者の不安をあおることになりかねない」(業界関係者)。

 首都圏のマンション供給戸数は、ピーク時の8万戸から半減し、現在はゆるやかな回復基調に乗っているところ。こんなハードルの高い基準を新設して販売に水を差してほしくないというのが、マンションデベロッパーの本音だろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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