FRB(米連邦準備制度理事会)に思わぬところから難題が降りかかってきた。

 金融危機後の金融市場の混乱に対応するために、FRBは銀行に対する従来の臨時貸出制度に加え、投資銀行向けの貸出制度など各種の流動性供給策を拡充してきた。どの金融機関がどの程度制度を利用しているかについては他の中央銀行同様、情報開示はなかった。

 一方、米国には情報開示を求められた連邦政府機関は回答しなければならないという情報公開法がある。そこで、米国の大手マスコミであるブルームバーグは、FRBに対し2008年4月4日~5月20日に執行された資金供給について、貸出先や金額などの情報を開示するよう求めた。

 請求を受けたFRBは当然のことながら拒否。ブルームバーグはこれを不服としてニューヨーク連邦地裁に訴えを起こしていた。その判決が8月24日に出たのだが、その内容は関係者を呆然とさせるものだった。なんと、ブルームバーグ側の訴えを認め、FRBに情報開示をするよう求めるものだったのである。

 情報開示をしなくてはならないとなれば、FRBが金融システムを守るという中央銀行業務の遂行に支障を来すのは間違いない。

 緊急対応の資金供給制度を利用した金融機関名と規模がわかってしまうと、当然、利用した金融機関の経営状態に疑惑が向けられる。「市場から当該金融機関は締め出され、資金繰り破綻するリスクが高まる」(石原哲夫・みずほ証券シニアクレジットアナリスト)のは確実。だから、利用する金融機関はなくなり制度は機能しなくなる。

 FRBはただちに上訴。地裁に上訴の手続き中は情報開示執行命令を出さないよう求め、地裁もこれを認めたため、情報開示をせずにすんでいる。だが、上級審でもブルームバーグの訴えが認められると開示を迫られる。米国経済正常化に向けた舵取りという難題に加えて、足元からもFRBは窮地に立たされた格好だ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)

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