産業心理学の権威の1人であるゲラーマンが某部品メーカーの営業担当者25人に同行調査を実施した。営業担当者一人ひとりの営業トークや振る舞い、さらには顧客企業の担当者の反応をつぶさに観察したところ、営業の基本動作といえる3つの要件が明らかになった。また、成績のふるわない営業担当者に共通する問題もこれら3要件に関わるものであることが判明した。残念ながら、営業を天職とする人材は少ない。したがって、セールス・マネジャー諸氏はこれらの要件の意味を知り、コーチとして低業績や成績にムラのある営業担当者の指導に努めなければならない。

営業職25人との同行調査

 私は25人の営業職を評価する仕事を請け負った。そこで、彼ら一人ひとりに同行し、その現場に赴き、1日中彼らが顧客や見込み客を訪問するのをつぶさに観察した。

サウル W. ゲラーマン
Saul W. Gellerman
元ダラス大学経営大学院学長。1999年に退職。産業心理学の大家の一人であり、またマネジメントの領域に心理学を援用した研究者の一人でもある。59~67年までIBMに勤務し、その後経営コンサルティング会社を経営した後、学術界に入る。The Uses of Psychology in Management. McGraw-Hill, 1960.、Management of Human Relations. Holt, Rinehart & Winston, 1966.、Management by Motivation. Amacom, 1968.、Behavioral Science in Manage-ment. Penguin, 1974.、How People Work: Psychological approaches to Management Problems. Quorum Books, 1998.など多数。

 もちろん、営業職に典型的な傾向をたった1日で知ることは不可能だ。しかも、観察した日の結果は、ほぼ間違いなく普通の日の結果より高くなるはずである。営業担当者たちは、また顧客も同様に、最高の自分を演出しようとするからだ。

 実のところ、私は営業成績そのものにはさして関心はなかった。営業職の生産性になぜこうも大きな格差が生じるのか、その理由を解き明かすことを依頼されていたからである。

 調査に当たっては、彼らの行動面における違いを明らかにすることに焦点を置いていた。営業職が、顧客のところに顔を出している時のみならず、訪問の合間における行動が、長期的な営業成績にどのように関係するのかを明らかにしたいと考えていた。なお、現場に出ている時、私はだれ1人として、その実績について知らされていなかったため、先入観によって見方が歪められることは避けられた。

 取り扱い商品はごくありふれた自動車用部品である。営業担当者は見本や分厚いカタログを携えて、とても数え切れない何千種類という部品の注文を取っていた。顧客は修理工場のオーナーか、自動車ディーラーの部品担当者だった。

 これらの商品は汎用品であった。だから、どの営業担当者にも、少なくとも六人ぐらいのライバルがおり、彼らも似たり寄ったりの商品を売り歩いていた。購入者である顧客は価格に敏感で、他の営業担当者が有利な取引条件を提示してきたとすぐに話してくる。営業職はある程度の価格の裁量権を与えられていた。しかし値引きしてしまうと、自分の収入に影響するので、本音では譲歩を持ち出すのは気が進まなかった。

 訪問のたび、私はずっと後ろに静かに立っていて、可能な限りありとあらゆることについて観察した。ほとんどの顧客が私のことを多少気にする程度だった。たいていの営業担当者が、私のことを「同僚です」とあいまいに説明していた。

 訪問の合間では、営業担当者の車のなかで印象を走り書きしたり、営業担当者に自身(25人全員が男性だった)について話してくれるように頼んだりした。