東京R不動産は「フリーエージェント・スタイル」という個人事業主がチームとして働く組織によって運営されている。個性的な不動産サイトとして注目を集める一方で、「会社ではない」組織のあり方が話題になっている。一方、「ほぼ日手帳」など大ヒット商品を持つ「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」を運営する東京糸井重里事務所は、「会社らしくない会社」として注目されてきた。この2社の対談シリーズ第4回は、次々と面白い情報やコンテンツを発信できる、社員やメンバーの「モチベーション」について。

生まれる仕組みとなくなるシステム
自由を守って楽しく働くためにルールはある

ほぼ日・奥野:僕は普通の出版社に勤めた後、5年ほど前にほぼ日の編集チームに入りましたが、その時に感じたのは「なんかフリーの人がチームを組んでるみたい?」ということでした。

【東京R不動産×ほぼ日対談】<br />ビジネスと面白さを両立させるための<br />社会とのつながり奥野武範(おくの・たけのり)
出版社に勤務後、2005年に東京糸井重里事務所に入社。読み物チームに在籍し、コンテンツでは『東北の仕事論』『21世紀の「仕事!」論。』、書籍『はたらきたい。』の編集など、「はたらく」や「仕事論」系を担当している。

 どんな企画を立ててコンテンツを生み出していくかに関して、いつでも糸井やチームの仲間に相談できる。でも、いざ仕事が動き出したら、自分が責任を持つべきところを決めるのは、最終的には自分。それぞれが、それぞれに「しっかり責任を持つ領域」を持っている。そういう仕組みなんだと理解しました。

ほぼ日・篠田:私もほぼ日に来る前までは、いわゆる大企業と言われるところで働いていたのですが、そういう会社では、学生から社会人になるときには、いかに「私」を捨てて「公」になるかという鍛錬をされて、それができる人ほど立派な社会人だと言われてきました。ところが、ほぼ日では公私混同しても、ちゃんと仕事はできるんですよね。

東京R不動産・林:確かに普通の会社はオンとオフがあって、それを切り替えようとするけど、今はスイッチがなくなり、オンオフがひと続きになっていますね。

篠田:一方で、私が入社した3年前はまだ、個人事務所が大きくなったような状態で、この人数で組織としてうまく回すためには、財務管理を含めて仕組みが必要だと感じました。それを考える上で、以前いた会社の仕組みは参考になりました。

【東京R不動産×ほぼ日対談】<br />ビジネスと面白さを両立させるための<br />社会とのつながり林 厚見(はやし・あつみ)
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てコロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。「東京R不動産」では主に事業面のマネジメントを担い、他に不動産の開発・再生における事業企画・プロデュース、カフェ・宿の経営などを行う。

 個人の動機は大事です。でも、個人の動機だけだと組織はバラバラになってしまう。だから、個々の動機がチームとして重なり、広がっていくことを支える工夫は日々必要です。そういう考え方は、以前いた会社で身についたものでもあります。

:結局、ほぼ日も東京R不動産も、多くの会社とマインドに違いはあるかもしれませんが、仕組みやシステムそのものが奇をてらっているわけではないんですよね。

 そもそもの構造として僕らの場合は「会社」に所属していないということやそれに伴うつながりの構造が特徴的なのであって、普段行われている業務のあり方自体は、大きく違うわけではない。

東京R不動産・吉里:東京R不動産では、ルールや仕組みに関しては、自然と生まれてきたものがほとんどです。合議制で物件の担当を決めることや、フィーの決め方もそう。フィーに関しては、スタート時点で人を雇うゆとりはなかったので、「利益が出たらそれをフェアにシェアする」という原則ができて、それをもとに少しずつルールを積み重ね、現段階での最適化が図られています。

:そのあたりは、独特かもしれませんね。僕らのルールは「性善説」に基づいて設定がされていて、だからこそ各々のマインドがフェアであることが何を差し置いても重要なんです。それが前提にあった上で本音をぶつけ合ってルールが形成されます。フェアであるという信念がベースにあれば、ヘンな遠慮もしなくなります。

篠田:ルールも仕組みも、そこにいるメンバーが動機を持って、快適に動くために必要だと思うから生まれるものです。それが揉まれて最適化されるか、なくなるかということなんですよね。自由を守って楽しく働くために、あえてルールや仕組みを作るというか。すべてのメールにCCを付けて、必要な限り情報を共有するというのも、自然発生的なルールです。