前立腺がんの早期診断に役立つとして前立腺特異抗原(PSA)検査が日本に普及し始めたのは21世紀の声を聞いてからだ。米国では1980年代末から広く定着した結果、92年前後をピークとして前立腺がんによる死亡率は低下した、とされている。

 しかし昨年10月、米国政府の予防医学作業部会はすべての年齢の男性に対し「PSA検査は勧められない」との“暫定”勧告を発表した。五つの大規模臨床試験を分析した結果、年齢、人種、家族歴にかかわらずPSA検査を受けたとしても死亡率を下げるという証拠を見出せず、それよりも不要な治療による後遺症や診断のショックによるデメリットのほうが大きいというのだ。さすがにこの勧告には「時期尚早」という声が上がり、現在意見公募中である。

 なぜこんなヤヤコシイことになるのか。一つにはPSA検査の精度の問題がある。一般にPSA検査結果では要2次検査ゾーンは4ng/ミリリットル以上。ただしその中には前立腺がんと前立腺肥大が混在し、擬陽性も少なくない。また、前立腺がんは進行がきわめて遅いため、自分ががんであることに気づかぬまま寿命を迎える人が多い。組織検査で前立腺がんと確定診断された場合でも、前立腺がん死するのは40人に1人。むやみに治療をする意味があるのか、疑問視されるゆえんだ。実際、最近は診断されてもすぐに治療を開始せず、定期的な検査をしながら経過観察を行う「PSA監視療法」を採用する施設が日米で増えている。