被災地の入札不調対策に疑問符<br />職人確保を阻む二つの難題2月11日の陸前高田駅(岩手県)。被災地の復旧・復興工事はこれから本格化する
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 はたして、打開策の効果は生まれるのか──。

 東日本大震災の復旧・復興工事をめぐって、入札に参加する建設業者が揃わない「入札不調」が相次いでいる。

 これは、職人不足と労務単価の上昇のためで、その発生率(土木工事)は宮城県が12月に実施した入札で45%、仙台市は1月に48%と半数近くに上った。

 こうした事態を受け、国土交通省は職人の確保に向けた打開策を打ち出した。柱の一つは、年に1回、実態調査を基に改定している公共工事の労務単価(入札の積算用)に、直近の数値を反映させる仕組み。もう一つが、地元と県外の建設業者による共同企業体を認める「復興JV」である。

 国交省は早速、2月17日に労務単価の見直しを実施、鉄筋工(8時間当たり)は1万6800円と、昨年度に比べて8.4%も跳ね上がった。

 だが、建設業界からは早くもその効果に疑問の声が上がっている。仙台市の建設業者はこう指摘する。

「すでに、型枠工などの職人は、賃金の高い除染の現場に行ってしまい戻ってこない。がれき処理の仕事を続けている職人も多い。今回、国が労務単価を引き上げても、職種によってはまだまだ市場単価とのギャップが少なくないだけに、どこまで職人が戻るのか」

 現在、宮城県で営業拠点づくりを進めている関西の中堅ゼネコン幹部も、不安をぬぐえずにいる。

「すでに、業者が高い賃金を出しても職人が集まらないのが実態だ。予定価格がアップするのはよいが、逆に労務単価の上昇で破格の高値で職人を集める業者が出てくる可能性もある。これでは、ますます人手不足となる悪循環だ」

 しかし、さらに根深い構造問題が建設業界には横たわる。長年続いた公共工事の削減で、職人の絶対数が急減していることだ。

 被災地の実情は、確かに厳しい。日本建設大工工事業協会・宮城支部に加盟する建設業者で見ると、人手不足の代表格となる型枠大工の2011年度の社員数は904人と、わずか2年のあいだに42%も減った。調査対象数が、29社から23社へと2割減ったことを勘案しても、劇的に衰退しているといえる。

 全国の鉄筋工なども合わせた技能労働者の人数でもその傾向は変わらず、10年が332万人(総務省・労働力調査)とピーク時の1997年に比べて27%も減っているのだ。

 国交省の建設業課は、打開策の成果を上げようと、「現在、手が空いている技能労働者には、短期でもぜひ東北に来てもらいたい」と呼びかける。

 だが、復旧・復興工事の本格化と求人の増加はこれからだ。国の対策で一時的に入札参加業者が増えたとしても、構造問題の打開やUターン職人の確保なくして工事と入札は続けられず、ひいては復興が遅れてしまうことになりかねない。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 内村 敬)

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